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 内田篤人のラストカシマとなった明治安田J1第12節G大阪戦。後半アディショナルタイムに劇的な同点弾を叩き込んだのは犬飼智也だった。

「勝っておくり出したい。それだけだった。もう時間がないなかで、後ろを見たらレオも上がっていなかったし、相手も(自分の)後ろに一人しかいなかった。クロスが上がったらいいなと思ってゴール前に上がった」 

 内田のロングフィードからつながったゴールを、犬飼はそう振り返る。現役最後のピッチに立った内田は、全盛期を思わせる巧みな駆け引きで、相手をかわしてクロスを上げた。犬飼は、試合中ではあったが、思わずこう叫んでいた。

「まだ、全然できるじゃん!」

 笑い返すだけの内田を見てアントラーズの選手とは何たるかを強く感じ、この試合だけでも多くのメッセージを受け取った。

「いつもどおりの篤人さんのプレーだった。勝つために自分がやるべきことを淡々とやる。それは最後の試合も変わらなかった。あれだけのキャリアを積んできた人がやるからチームに響くことがたくさんあるし、あれだけのキャリアを送ってきた人が自然体でチームメートに接する姿も見てきた。何だかんだ言いつつも、人一倍ちゃんとやるところもそう。チームの一人ひとりを見て声をかけている姿もそう。まだまだ自分はできていないな、と思わされた」

 G大阪戦の試合後、フラッシュインタビューでは涙をこらえることができなかった。内田が見せてくれた練習での姿勢、チームの雰囲気づくり、さらには一緒に食事やたわいもない会話をした記憶が蘇った。そして、セレモニーでの内田のスピーチは、ファン・サポーターに向けたものであると同時に、自分たちへのメッセージだとも感じた。

「チーム全員にあの言葉は響いたと思う。アントラーズの選手としてのあり方を、僕もそうだけど、全員に示してくれた。篤人さんが『身を削って』と言っていたように、アントラーズの選手は、それくらいやらなければいけないというのを、改めてみんな思い知らされた。子どもたちへのメッセージも自分たちへのプレッシャーだと感じた」

 その後、チームは連勝街道を突き進んだ。前節の大分戦で連勝は「7」でストップしてしまったが、内田の言葉は、選手たちの胸にいまも深く刻まれている。

「戦うプレーが増えた。ザーゴ監督とやりたいフットボールをやるのは当たり前。それにプラスして、本来、アントラーズの選手たちがやってきた当たり前のことをやる。それを見つめ直させられたと思う」

 最終ラインを見渡せば、犬飼よりも年下の選手が多い。DFリーダーとして、もっともっとチームを牽引することが期待されている。

「そこは今季が始まる前から意識していた。篤人さんがいなくなったからというわけではない。けど、もっともっと自分が背負うべきだし、やらなければいけないとも思っている。それを行動に移していきたい」

 背負うものは増え、責任も増した。選手として、人として、犬飼はまた、アントラーズで逞しくなっていく。

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