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 茨城県鹿嶋市で生まれた沖悠哉は、小さい頃からアントラーズでゴールマウスを守ることをずっと夢見てきた。そして、ジュニア、ジュニアユース、ユースと順調に歩みを進め、2018年に念願のトップチーム昇格を果たした。

 しかし昇格後は苦悩の日々が続いた。プロのレベルについていけず、GKコーチが課すメニューを自分だけクリアできないこともあった。「正直、試合に出るには、程遠いレベル。自分でもわかっています...」。先輩との差を痛感させられ、トレーニングで毎日悔しさを味わった。

 2年目に突入しても、簡単に先輩との差は埋まらない。他チームに目を転じると出場機会を増やす同年代のライバルが出てくる中、全く試合に絡めないことに危機感を覚えた。

「焦らないと言ったら嘘になる。だけど、壁が厚いことはわかっているし、まずは自分自身のレベルを上げる必要がある。精神的にも、肉体的にも、技術的にも、すべての面で成長するために自分と向き合わないといけない」

 そんな雌伏の時を過ごしていた沖だが、一緒にトレーニングする憧れの存在が、弱気になった自分を奮い立たせた。「試合に出るのは簡単じゃない。だけど、ピッチ内外を含め、ソガさんやスンテさんといった偉大な先輩の、ちょっとした仕草や表情、感情の出し方などを、日々間近で見られるだけで、本当に勉強になる。こういう環境にいられて感謝しかない」。最高の手本が隣にいることで、毎日のトレーニングで全力を尽くすことができた。

 また、曽ケ端とスンテは、助言を求めるといつも快く応じてくれた。

「ソガさんとスンテさんは、いつもアドバイスをくれる。普段のトレーニングでもそうだし、試合の後もすぐに的確な助言をもらえる。特に『GKとしての振る舞い』の部分を指摘してもらうことが多い。ミスの後にミスをしないことだったり、堂々とした立ち振る舞いだったり。とても大切なこと。その部分では、僕はまだまだ足りていない。もっともっと改善していかないといけない」

 そして、数々の難局を乗り越えてきた曽ケ端とスンテだから、伝えられる言葉がたくさんあった。「俺だって、失敗したら落ち込む。ただ、プレー中は割り切って切り替えるしかない。強引にでも切り替えて平常心でプレーを続けることが大事」(曽ケ端)。「ボールを持って慌ててしまうのはわかるけど、GKがあたふたすると、全体が慌ててしまう。だから、GKはしっかり堂々と構えて、何事にもブレないようにする。そうすると、フィールドの選手たちは安心するよ」(スンテ)。尊敬する人格者ふたりの言葉は沖の心に刻まれた。

 そんな弛まぬ努力を続けていた沖に、プロ3年目を迎えた今季、千載一遇のチャンスが巡ってきた。後方からのビルドアップを重視する新たなフットボールスタイルへ転換したことで、足元の技術に長けた沖に白羽の矢が立つ。そして、2020年8月8日の鳥栖戦。ついに憧れの舞台でプロ初出場を果たした。そこで期待に応える好パフォーマンスをみせると、以降、沖は正守護神に据えられた。

 開幕前には本人ですら想像できなかった正守護神の座を掴んだ。だが、沖に浮かれる様子は全くない。

「試合に出れたからと言って、うかうかしていられない。ここからさらに頑張っていかないといけない。自分は日々の練習でアピールして、その結果が試合に出る。日々の練習をおこたらずにしっかりやっていきたいーー」

 尊敬するふたりから、まだまだ学ぶべき点が多いことをよく理解している。目標は「チームメートに“後ろに沖がいれば大丈夫“と思ってもらえるようなGKになる」ことだ。

 21歳、沖悠哉。アントラーズのゴールマウスは俺が護る。

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