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 三重県に生まれた和泉竜司は、小学校時代から県選抜に選ばれるなど、幼い頃から才能の片鱗を覗かせていた。中学生になると、地元の強豪クラブであるFC四日市(現TSV1973四日市)に加入し、高円宮杯とクラブユース選手権で全国大会に出場した。当時から足元の技術は抜きん出ており、大きな注目を集めていた。

 高校は親元を離れて、千葉県の市立船橋高校へ越境入学した。比較的早い時期からトップチーム入りを果たし、2年生の夏のインターハイでは、大会得点王に輝いた。チームを7度目のインターハイ全国制覇に導き、全国に“市船の和泉”の名前を轟かした。

 しかし、どれだけ活躍しても、謙虚な姿勢と向上心を失うことはなかった。当時を振り返って、和泉は「高校2年生の終わりごろにJ1の2、3クラブからオファーがある選手じゃないと、いきなりプロで活躍はできないと思っていた。高校時代からプロを目指していたけれど、自分はそういう選手ではなかった」と語る。活躍に浮かれることなく、ひたむきに努力を続けた。

 最上級生になると、キャプテンを任された。どの年代においても“市船は負けてはいけない”と言われ、勝利を義務づけられた環境で戦った。そして、チームを選手権優勝に導いた。本人は「高校3年のとき、『人間力』の大切さをそれまで以上に説かれるようになった。僕らの代は決して優勝できるようなメンバーではなかったけれど、副キャプテンたちがBチームの選手も含めて、全員が同じ方向を向けるように尽力して、僕らを支えてくれた」と振り返る。和泉にとっては、自分のプレー以上に、チームの勝利とチームメートのことを考える1年となった。

 市立船橋高校のエース兼キャプテンとして全国制覇に貢献した後、明治大学へ進学した。大学1年にしてレギュラーを獲得すると、磐田のキャンプにも参加。そこで自分のプレーがプロで通用する手応えを感じた。ただ、決して努力を緩めることはなかった。監督からは「プロになるためじゃない、なったあとのことを考えて日々を過ごせ」と、常に厳しい言葉を投げかけられた。高校時代に育み、鍛えられた人間性にさらなる磨きがかかった。そして、数多くのオファーを受けた中からJ1の名古屋グランパスを選択し、ついにプロフットボーラーとしての人生を歩み始めた。

 しかし、プロ1年目の2016シーズン、今でも忘れられない悔しい思いを味わうことになった。シーズン序盤からチームの調子がなかなか上がらず、最後の最後まで残留争いに巻き込まれてしまう。1年目から出場機会を得ていた和泉だったが、最終節はベンチ外となり、チームも湘南に負けて、クラブ史上初のJ2降格が決定してしまった。

「当時の僕はプロ1年目で、あの試合はベンチにも入れず、スタンドから見ていた。悔しさとともに、ピッチ上でチームを助けるどころか、その場にさえ立てない自分の力のなさを感じた」

 和泉はあの経験を力に変えて努力することにした。「あのときに味わった悔しい気持ちが2年目からの自分を奮い立たせてくれた。いい経験とはいえないけど、自分にとっては大事な試合というか。プロになってからの一つのターニングポイントになっていると思う」。苦い記憶は若き和泉にプロとしてあるべき姿を植えつけた。そして、その経験が弛まぬ努力を続ける原動力となり、名古屋の1年でのJ1復帰などに大きく貢献した。

 プロ5年目を迎えた今季、さらなる成長を求めてアントラーズに加わった。移籍の決断は簡単ではなかったという。「名古屋でも評価していただき、強化部をはじめとしたクラブのスタッフ、そして多くのファン・サポーターの皆さんに残ってほしいと声をかけてもらった。特に応援してくださる方がの思いというのは、名古屋に在籍していた4年間、人一倍背負ってプレーしてきたつもり。移籍という選択は簡単にできなかった」と古巣への思いを語る。

 だが、「サッカー選手として自分はどうなりたいのか?」、「どこを目指していくのか?」を考えたとき、厳しい環境に身を置く必要性を感じた。「環境が選手の成長を促すことは、常に勝利が求められた市立船橋高校や明治大学でも強く感じた。それがわかっているからこそ、もう一度そういう場に身を置くことを求めたところがある」と、高校時代や大学時代の体験が新たな挑戦を後押しした。

 名古屋への感謝はいまも変わらない。「家族、教えてくれた指導者、一緒に戦ってきたチームメート、みんなのおかげで僕はここまで来られたと思っている。心から感謝しています」と語る。だが、名古屋で学んだことがある。

「努力を重ねて、試合で活躍することがプロとして大事なことなんだと改めて気づかせもらったーー。僕が大切にしているのは、試合に出てチームの勝利のためにプレーすること。アントラーズでも常にチームの勝利を最優先してプレーしていくつもり」

 感謝の思いを胸に。すべての経験を糧に。和泉竜司はアントラーズの勝利のために戦う。

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