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 2014年のプロデビュー以来、小泉慶は常にアルビレックス新潟の主力選手としてプレーしていた。しかし、柏レイソルに加入して2年目を迎えた昨季は、出場機会に全く恵まれなかった。怪我をしたわけでも、コンディションが悪かったわけでもない。すでにボランチと右サイドバックのポジションが別の選手で埋められていたのだ。シーズン開幕から半年が経過しても、リーグ戦の途中出場はわずか1試合のみ。ベンチ入りした試合でさえ、わずか5試合のみだった。完全にチームの構想外に追い込まれてしまった。

 試合から遠ざり、暗闇の中でもがき苦しむような日々が続いた。本人は「腐りかけた」と当時を振り返った。一生忘れることのない、苦難のときだったと言う。

 だが、苦境のなかでも、小泉は己と向き合い、「腐りかけた」自分を奮い立たせた。「試合に出ていないときでも、腐らずにやっていればチャンスはあると思っていた。自分との戦いだったので、矢印を自分に向けた。常に自分と戦って、1日、1日を大切に、1回、1回のトレーニングを無駄にしないように考えながら、身体だけは鈍らせないように、トレーニングを続けていた」。必ず光が差すと信じて努力を続けた。

 そして、2019年7月23日。小泉の鹿島アントラーズ加入が発表された。「1日でも早く試合に出て、アントラーズの勝利に貢献したい」。サッカー人生を懸ける覚悟で、移籍を決断した。

 すると、小泉は加入直後からトレーニングで高いパフォーマンスを披露した。腐らずに努力を続けてきた成果が現れたのだろう。「周りの選手の特長やタイプが分かってきて、練習から思い切ってプレーできるようになった」と、あっという間にチームへ適応した。そして、怪我人が続出していた右サイドバックの穴を完璧に埋め、何年も前から在籍していたかのようなプレーでチームに落ち着きをもたらした。苦難の半年を乗り越え、ようやく光を浴びられる場所にたどり着いた。

 しかし、シーズン最後までピッチに立ち続けることはできなかった。優勝争いが佳境に入ったリーグ最後の4試合はベンチ外、天皇杯の準決勝と決勝もベンチ入りはかなわなかった。ようやく掴みかけたチャンスを失い、またも言葉にし難い悔しさを味わった。

 ただ、出場機会を失った原因は自ら分かっていた。その分、落ち込みすぎることなく、自分を客観的にみることができたという。原因は怪我人が復帰したからではない。練習でも試合でも、思うように自分らしさを出し切ることが、できなくなっていたからだ。本人は「アントラーズをリスペクトしすぎたというか、『いいチームだな』、『いい選手がたくさんいるな』と思いながら、自分の良さを出すよりも、チームメイトやチーム全体に合わせることを優先してしまった」と、昨季終盤を振り返る。強面ながら心根が誰よりも優しい漢は、慌ただしかった加入直後から時間が経ち、落ち着いて周りが見えるようになったことで、逆に周囲へ気を遣いすぎてしまう部分があった。

「悔しさやつらさもあったけど、出場機会を失ったのは僕自身の問題だった。自分なりに出られない理由も理解していたつもり。でも、このままではいけない。来季はこれまでの経験を活かして、自信をもってやりたい」

 並々ならぬ決意で2020シーズンに臨んだ背番号37は、チーム随一の激戦区であるボランチのポジションで勝負を挑んだ。だが、やはり三竿、レオ、永木の壁は厚く、なかなか出場機会を得られなかった。それでも、プロフェッショナルな姿勢を崩さず、トレーニングを続けた。すると、ようやく第9節鳥栖戦で出番が訪れる。フル稼働していた広瀬の代役として右サイドバックで出場機会を掴んだ。ここで安定感のあるパフォーマンスを披露し、指揮官の信頼を得た。そして、横浜FC戦でも及第点のパフォーマンスをみせ、迎えたアウェイFC東京戦。負傷離脱してしまった広瀬の後に先発の座を託されたのは小泉だった。

 FC東京戦で小泉は素晴らしいパフォーマンスをみせた。対面する選手との1対1を完璧に抑え、気の利いたカバーリングでチームのピンチを救った。攻撃面でも試合終盤まで右サイドを何度も駆け上がり、味方をサポートした。出場機会に恵まれなかった期間も弛まぬ努力を続けてきたのだろう。漢が再び実力で光を浴びた瞬間だった。

 今節は小泉にとって非常に重要な試合となる。今節も高いパフォーマンスを披露すれば、広瀬の抜けた右サイドバックの定位置争いで一歩リードすることになるだろう。そして、相手は古巣、柏レイソル。不思議な運命の巡り合わせだ。

「ずっとベンチ外だった自分をアントラーズが拾ってくれた。そこに関わった人たちを裏切りたくない。なんで獲ったんだ、なんて言われないようにやらないといけない。試合に出て、しっかりプレーを続けていくことが、アントラーズへの恩返し」

 自然と気持ちは高まる。「試合に出る以上は、アントラーズの勝利のためだけにプレーする。体力を余らせて試合を終えるのではなく、自分の持っているパワーやエネルギーを最大限に使い切るまでプレーしたい」。言葉からは自然と勝利への決意が伺えた。

 これまでの経験で学んだこと。すべてを発揮する90分だ。背番号37、小泉慶はアントラーズの勝利を目指して戦う。

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