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「もうフットボールのことを考えたくないくらい落ち込んだ。気持ちを切り替えるのが、本当に難しかった」

 2020年元日、天皇杯決勝でヴィッセル神戸に敗れた。言葉にならない悔しさを味わった。目の前で栄冠を掲げられた、あの光景が脳裏に焼きついて離れなかった。

 オフシーズンに入っても、完全に気持ちを切り替えることはできなかったというレオだったが、宮崎キャンプでチームに途中合流すると、大きく様変わりしたフットボールに心が踊った。「ザーゴ監督に代わり、新しい選手がたくさん入って、練習のときから一人ひとりの熱を感じる」と刺激を受けて、再び目標に向かって走り出すエネルギーを得た。

 ザーゴ監督と目指す新たなフットボールスタイルにおいて、ボランチは重要な役割を担う。流動的なポジショニング、攻撃の組み立て、守備時の素早いアプローチなど、従来よりも「攻守の舵取り役」としての役割が多岐に渡り、高度な技術とフットボールIQが求められる。プロフットボーラーとしてのキャリアが長いレオにとっても、新鮮なことだ。

 34歳にして挑む、新たなフットボールへの取り組みは簡単ではない。だが、「僕自身も新しいスタイルにトライすることによって、選手としてより成長できるという手応えを感じているよ」と変化を歓迎した。そして、「監督が求めるプレーを体現することで、チームに貢献しながら自分の可能性を広げることにもつながっていくはず」と、いまも衰えぬ強い向上心を覗かせた。

 だが、新たなスタイルへの適応は困難なものだった。戦術を意識するなかで、プレーの細部までこだわることができず、プレッシャーのかかる攻守の最終局面で精彩を欠いた。また、3月の練習試合で右足を負傷したことで、公式戦の再開直後はベストなパフォーマンスができなかった。「常に集中力を高めながら、プレー一つひとつの細かい部分まで意識を傾けないといけない」と課題を話していた。

 そんな苦しい時期が続くなかだったが、ピッチ内外におけるチームへの気配りは欠かすことがなかった。レオは、「フットボールはチームスポーツ。あくまでチームの成績で評価されるものであって、チームの顔になりたいとか、ベストイレブンを獲りたいとか、そういった意識はまったくない」と語る。日頃の練習中から味方へ身振り手振りでアドバイスを伝える場面がよくみられる。また、今季は新加入の選手たちがすぐにチームになじめるように、間に入ってコミュニケーションを取る場面も多くみられた。

「(新加入選手が)少しでも早くチームになじめるよう、この半年間、選手全員が積極的にサポートしてきた。そういう面に関して、アントラーズに在籍する選手たちの人間性はすばらしさを感じるし、その一員であることを本当にうれしく思う。特に僕は、(アラーノ、エヴェラウドと)同じブラジル人だし、年齢やクラブ在籍年数を考慮すれば、2人のサポートは使命だと思って取り組んでいるよ」

 レオの貢献もあり、試合を重ねるごとにチームには戦術が浸透していった。ここ数試合は、「監督と目指すサッカーはかなり浸透していると思う。ピッチ内のどこにチームメートがいて、どのようなスペースに動き出し、どういうプレーを選択しようとしているのか。暗黙の了解のもとで戦うことができるようになってきた」と、ピッチ上でチームの成長を感じ取っている。そして、「もともと選手一人ひとりのクオリティは高いものがある。それぞれが細部へのこだわりを徹底できれば、シーズン中盤から終盤にかけて、リーグ戦の上位戦線に加われる。戦いはまだまだこれから」と、自信を覗かせた。

「アントラーズを応援してくれている人たちに伝えなければいけない。皆さんの情熱や熱気は、きっと皆さんが思っている以上に、僕ら選手の力になっている。序盤は苦しい試合が続いたが、僕らにできることは勝利やタイトルを手にして、ファン・サポーターの皆さんに喜びを届けること。選手やスタッフ全員、僕らは新しいアントラーズの戦いを信じて、これからも取り組み続ける。僕らのことを信じて、熱い声援を送り続けてほしい」

 昨季の悔しさを糧に、新たなフットボールへ挑戦する今シーズン、戦いはまだまだこれからだ。夏場の連戦も、高温多湿も、乗り切れる。我々には頼れる背番号4がいる。ピッチの中央に君臨するレオ シルバが、アントラーズを勝利に導く。

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