PICK UP PLAYER

photo

「監督から求められていることをしっかりやるだけ」

 今季公式戦未勝利という屈辱が続く中、遠藤康は前を見据えている。「やって来たことを簡単に諦めるようでは、最初からやらない方がいい。『正しい道を進んでいる』と誰もが思っている。その気持ちを大切にしてやっていくだけ」と、自らの信念に絶対的な自信を持っている。

いつも笑顔で冗談好きで周囲を笑わせていた遠藤も、すでに「ベテラン」と呼ばれる歳となった。今年で32歳。13年前にこのクラブに来た時のことは遠い過去のようだ。

「もうそんなになるんだね。ずっとここにいるから、忘れちゃった。ここと(生まれ故郷の)仙台しか知らないもん(笑)」

 生まれ故郷の仙台にある、小さな街クラブであるなかのFCでサッカーを始めた遠藤は、中学生の頃から隣町にある塩釜FCという、これまた街クラブでボールを蹴っていた。当時、勢力を伸ばしていたベガルタ仙台のアカデミーやサッカーの強い高校へ進学する選択肢もあった。しかし、遠藤は「塩釜FCにとにかくうまい先輩がいたの。『あ、あの人みたいになりたい。あの人とボールを蹴ってみたい』。その気持ちだけで塩釜FCにいった」という。憧れの人とサッカーをしたい。昔から、遠藤は純粋な"サッカー小僧"だった。

 そして塩釜FCでの成長を認められ、高校卒業後にはアントラーズに加入する。野沢拓也や本山雅志といった、天才プレーヤーたちと同じポジションであることもあり、加入当初の数年は公式戦出場の機会もほとんどなかった。それでも遠藤は当時のサテライトチームでその才能を発揮し、「次の時代のアントラーズを背負うべき存在」と呼ばれるまでになった。

「不思議と焦りはなかった。だって紅白戦をやれば、タクさんやモトさんみたいな人と対戦するんですよ。塩釜にいた時と同じで、『あ、この人たちとやっていれば、もっとうまくなれるな』って思った。そしてみっつぁん(小笠原満男)もイタリアから帰って来た。楽しかったね。(2007〜2009年の)リーグ3連覇にはプレーでは貢献していないけど、ロッカールームに笑顔を振りまくっていうことでは貢献したよ(笑)」

 史上初のリーグ3連覇という栄光の黄金期を笑顔で振り返る遠藤だが、今ではその偉大な先輩たちと比較される存在となった。

「前はそんなに言わなくても、『一緒にやればわかるでしょ』みたいなところがあった。でも今はあの頃を知っている選手がソガさん、篤人くんと俺ぐらいになった。言葉の数は少ないかもしれないけど、言うべきことは言って伝えようと思っている」

 今年から選手会長となった犬飼智也は遠藤の存在を「チームの重し」と表現する。「普段はひゃっひゃっ言って笑っている人だけど、試合後のロッカールームで話す言葉がすごく響く。そういう空気を持っている選手がいるから、アントラーズはアントラーズなんだと思います」と、遠藤の言葉の重みを語る。

「アントラーズは強くなければいけない。勝たなければいけない。それがクラブの使命」

 リーグ再開後、途中出場が続いているが、ピッチに立った遠藤はそれまでの流れをガラリと変える存在感を放っている。遠藤を中心にボールが回り、そしてゴール前に迫る。攻撃のコンダクトはまさにこの男が握っている。

「何がなんでも勝つ」

 "ワンクラブマン"の誇りを取り戻すための戦い。ここまでの連敗を止め、再び勝ち点3を積み上げていくためにはライバル浦和とのアウェイゲームは最高の"リスタート"だ。明日も遠藤は仲間とともに戦う。ただ、勝利のために。

photo


pagetop