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 まだ19歳にもならない若きストライカーが等々力のピッチでその存在感を放った。染野唯月はこの歴史的なJリーグ再開初戦で自らの公式戦初出場を記録した。

 72分、1点を追いかけるザーゴ監督はその日最後の交代枠となる5人目のカードに染野を選んだ。その指示は明確。川崎Fから1点、そして2点を奪い去ることだ。

「監督からは、自分でボールを受けて、自信を持ってプレーしろと言われてピッチへ送り出されました」

試合後、新しいプロトコールで定められたオンラインでの囲み取材で染野はそう語った。そしてその言葉通り、20分弱という短い出場時間ではあったが、自らボールを受け、仕掛け、そしてシュートを放った。85分、遠藤からのピンポイントのパスを左サイドを駆け上がった永戸がダイレクトでゴール前へ折り返す。これが相手DFのクリアミスを誘い、こぼれたボールは染野の前へ。染野は一切の躊躇を見せず、右足を振り抜いた。

 その豪快な一撃は川崎Fのゴールネットに突き刺さったと思われたが、これは無情にもクロスバー直撃。自らに訪れた決定機を仕留められず、若きストライカーは悔しさを体いっぱいで表現した。

 その2分後には左サイドからの遠藤のアーリークロスへ反応し、ペナルティーエリア内で谷口と競う。胸トラップでマイボールにしようと試みたが、谷口に体をぶつけられバランスを崩し、ピッチに倒れてしまう。PKでもおかしくはなかったが、判定はノーファウル。ピッチに倒れたまま、しばし動けない染野以上に怒りを見せたのは、遠藤、永木らベテラン勢だった。永木がイエローカードを宣告されるほどの抗議はもちろん実るはずもない。染野の公式戦デビューはほろ苦いものとなり、自身も「チームを助けることができなかったということがすごく残念だった」と悔しがった。

 だが試合後、ザーゴ監督はこの若き弟子を「決定的な仕事をしてチャンスを演出してくれた。いい才能を持っている選手だし、トレーニング中も要求したことに対して取り組む姿から意欲というものを感じる」と賞賛した。指揮官の言う通り、この日の染野には相手を威圧する存在感と怖さがあった。

「大迫さんのような選手を目指す」

 染野は自身の目標とする選手に、「大迫勇也」と偉大な先輩ストライカーの名前を挙げる。自分と同じように全国高校サッカー選手権でゴールを量産し、アントラーズではそのゴールでチームを何度となく救った。「ボールを収められるし、自分で仕掛けることもできるし、ゴールも決められる」。そのプレースタイルはまさしく染野が目指すものと合致する。

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 2戦連続の出場となるかはわからない。しかし染野には期待をせずにいられない存在感を感じる。「次こそはチームを助けるプレーを」。この若武者がカシマのピッチで躍動する姿を見てみたい。

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