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「もちろん悔しいですし、フォワードだったら決めなければいけないところでした」

 YBCルヴァンカップ準決勝第1戦の試合後、決定機を逸したことについて問われた上田綺世は努めて冷静に、だが少し強い調子で、記者の質問に答えていた。「シュートを外したからといって悲観的になる必要はないと思います。外したことは自分の心に置いておきます。次の1点に向けての準備はもう始まっているので、切り替えてやっていきたいです」。すぐに切り替え、次の得点を狙う。実にストライカーらしい受け答えだった。

「次は決められるように頑張ります。(技術的なミスの要因は)メディアに話すことではないので。パスの選択肢を選んでもらったことは嬉しいですし、あとは、あれを決める必要があると思います」

 言葉を選びながら話していた上田だが、口振りからは隠しきれない「怒り」の感情が感じられた。その理由は聞かずとも明らか、チームを勝利に導く得点が奪えなかった悔しさからだろう。気持ちの強さが伝わる。語気は自然と強くなっていた。

 一般社会と一線を画する特殊なプロフットボールの世界では、平常心を保ち、冷静沈着にいることだけが正義ではない。冷静さを保ちながらも、ときに心の奥底から湧き出る感情をそのままプレーに昇華させることが必要になる。相手も選手人生をかけ、決死の覚悟でゴールを守っている。苦境に立たされたとき、頼りになるのは、圧倒的な熱量をもった選手だ。

 その点、上田は先天的にストライカーの資質をもった選手といえる。試合後のミックスゾーンでは、冷静さのなかに抑えきれぬゴールと勝利への欲求が強く感じられる。「(ACL広州戦の試合後)得点を取ろうと思って試合に入った。アウェイで点を取れなかったことが、(ACL)敗退のきっかけになっている部分だと思う。毎試合、点を取ろうという姿勢が大事になる。この悔しさをもって、次に臨みたい」。「(札幌戦の試合後)長い時間プレーして、シュートが1本というところは力不足だった。不甲斐ない。このチャンスをものにできる選手が上に行けると思う。次に自分がチャンスを得た時は、活躍できるように切り替えていく」。一流のストライカーには欠かせない、心の内側に秘めた膨大な熱量が伝わる。

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 しかし、まだその持てる力の全てを発揮出来ているとは言い難い。プロデビューから3試合目の出場となったリーグ戦のホーム横浜FM戦で鮮烈な初ゴールを決め、アウェイ清水戦でも2ゴールを決める活躍をみせたが、対戦相手からの警戒もあり、清水戦を最後に公式戦で1ヶ月以上もゴールから遠ざかっている。ルヴァンカップ準決勝第1戦でもタイミングの良い動き出しを繰り返し、何度もボールを呼び込んだが、最後のシュートが決まらなかった。技術的には高いレベルにあるにも関わらず、最後の部分で得点が取れない状況が続いている。ゴールだけがストライカーの価値ではないが、ストライカーである以上はゴールを求められる。決めきれるか、決めきれないか、その差は大きい。常に勝利を義務付けられるアントラーズで、最後の仕上げを託されるプレッシャーと戦いながら、結果を残し続けなければいけない。

 これまで以上に秘めた闘志を燃やし、得点を奪い切る力が必要だ。プロデビュー1年目ということを考えれば、決して簡単ではないことだが、彼ならばきっとこの困難を乗り越えられるはずだ。ストライカーは「自らの得点でチームを勝たせること」によって成長すると云われる。重圧のなかで結果を残すことで、精神的な逞しさを身につける。チームを勝利に導くゴールが、自らの成長に直結するポジションだ。偉大な先人たちも重圧を受けながら、自らの得点で殻を破り、飛躍を遂げてきた。彼ならばゴールを決めてくれるはず。そう信じるから、我々アントラーズファミリーは上田綺世の名を呼び、心からのエールを送る。

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「憧れのスタジアムであれだけ熱いサポーターの前でプレーできて、特別な気持ちになりました。シュートを打って、ゴールが決まった後、サポーターを見たら、みんなが前のめりになる姿が見えて...グッときました。これからも勝つために、優勝のために、点を取り続けたい」

 プロ初ゴールを決めた横浜FM戦の試合後、笑顔を見せて嬉しそうに語っていた。サポーターからの歓声を受けることで、冷静さに隠された情熱が沸騰する。乾坤一擲の戦いで勝負を決めるのは、圧倒的な熱量をもつ選手だ。彼ならばやってくれるーー。

 秘めた闘志が開放されたとき、カシマは歓喜に揺れる。今夜は上田綺世がアントラーズを勝利に導く。

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