「俺、辞めるわ。健斗、来年は頼むな」「俺に任せてください」
昨シーズン、三竿健斗は現役引退を決断した小笠原満男からクラブの未来を託されていた。
「これまで満男さんが出ていたポジションですから。自分が試合に出場するときは、そういうところも意識しないといけないと思っています。もう先輩についていく立場ではないので」
23歳という若さでチームを牽引する立場となった健斗は、これまで以上に責任と自覚をもつようになった。試合の中だけではない。日頃の練習への姿勢やチームメイトへの声のかけ方、日常生活の立ち振る舞い、取材の受け答えなど、様々な場面で、自らの言動がどのようにチームへ影響を及ぼすか考えながら行っているのがわかる。
試合後に行われるミックスゾーンでの取材でも、その姿勢の変化が垣間見えた。チームメイトのミスがきっかけで失点を喫した試合では、「ミスは誰でもありますし、いままで逆にミスなく良いプレーをしてくれてたんで、その1回のミスは気にしない。すぐ試合は来るので切り替えてやっていくしかないです」と、前向きに語り、出場機会の少ない選手の活躍は「なかなか試合に出れていなかった選手が、チームを助けて引っ張ってくれました。このチームが強くなっている要因かなと思います」と、発信する。チームを勝利に導くために、いま、自分はなにをすべきなのか。その時々で最善の行動が出来るように努めている。
もちろん、成長しているのは、精神面だけではない。ピッチの上でのパフォーマンスも常に向上し続けている。なかでも、本人が最も手応えを感じているのが、ボールを奪い取るプレーだ。
「ボールを奪うときの足の出し方は、すごく良い感覚でやれています。今シーズンの前半よりも、成長している部分かなと感じます。いま、自分がやっているトレーニングが身体に馴染んでいると思うし、段階を踏んでいくなかで、レベルが上がってきている。うまく自分の身体を使えているということが、ボールを奪うときの足の出し方や身体の使い方に繋がっていると思います」
精神面でもプレー面でもチームに欠かせない支柱となった健斗は、ゲームキャプテンを任されることも増えている。キャプテンマークを巻く意味について、「軽い気持ちじゃ着けられませんし、どういう人が着けてきたかを毎試合思い出して臨んでいます」と語る。「偉大な先輩たちが責任をもって着けてきたものなので、僕もその責任感を感じながら、光栄に思って自分がチームを勝たせるという気持ちでやりたい。その責任感は自分の気持ちを良い緊張感に保たせてくれていと思います」と、自らが担うことになった責任の大きさを話した。
「アントラーズにはチームを勝たせられる選手がいい選手という基準がありますが、それがなんとなくしかわからなかったんです。昨年は最後に怪我をしましたけど、シーズンを通してずっと試合に出て、改めて勝たせられる選手はすごいと思いました」
「今季はいろんな選手が抜けたり、去年とはだいぶメンバーも変わってますけど、そのなかでもチームを勝利に導ける選手になれれば、もう1ランクも、2ランクも上の選手になれると思います。今年は自分自身、精神的にも、プレー面でも、伸びる年になると思っています。本当にタイトルが獲りたいので、それが獲れれば、シーズンが終わったころに、違う景色がみえているかなと思います」
まずは、毎試合チームの勝利のために全力を尽くす。そして、タイトルを獲る。その先に、成長がある。心から愛するアントラーズで、偉大なる先人と比肩し得る存在へ。
「ACL決勝のカシマスタジアムの雰囲気は絶対に忘れません、スタジアム全体が手拍子で揺れたあの音はすごかったです。僕たちを勝たせてくれる雰囲気がありました。あの試合のパフォーマンスと結果を選手は全試合で出さないといけない。サポーターの皆さんもあの日の雰囲気をいつもつくってもらいたい」
偉大なる先人から託された想い、サポ―ターからの期待を背負って、今日も三竿健斗は闘う。アントラーズの魂として、ピッチの支配者として。ただ、勝利だけを求めて走り続ける。