ゴールキーパーは特別なポジションだ。日々、膨大なプレッシャーと闘いながら、己の身体一つでゴールマウスを守らなければいけない。1つのミスがチームを敗北に追い込む。並大抵の精神力では耐えられない職務だろう。
「日本で日本人選手と一緒にプレーすることの楽しさを感じています。そのなかで、僕は助っ人として来ているので、その責任感も感じています。韓国でプレーしているときよりもプレッシャーはありますし、そのなかでチームを勝たせないといけないという責任もある。そういう部分を楽しみながら生活しています」
我々の守護神クォンスンテは、異国の地でゴールマウスを守るという激務を、いとも簡単に全うしてしまう。
「たくさんのサポーターの方々が駆けつけてくれると力が出てきます。そして、自分の知らなかった力が出てくる時があります」
サポーターの情熱が吹き込まれると、クォン スンテの魂は燃え滾る。猛々しい本能を呼び覚まし、ピッチ上で全てを解き放つ。その迸る熱情は己にのしかかる重圧を超越するだけでなく、チームの最深部から仲間へと伝播していく。凄まじい火力で全てを巻き込むように、チームの逆境を跳ね除けてしまう。
「サポーターの皆さんも1試合にかける気持ちというものがある。だから、サポーターに恥ずかしくない試合をしないといけない」
仁義を重んじる人柄だからこそ、辿り着けた境地なのか。己に向けられた愛情をそのまま力に変換できる。
ピッチを離れれば、温和で優しく、周囲への気遣いをいつも忘れない。スンテの周りはいつも笑顔で溢れている。その人徳で誰からも愛され、普段からリーダーの一人として、チームの雰囲気づくりに一役買っている。
「特に雰囲気をよくしようと意識しているわけではないけれど、サッカー選手として練習していることが楽しいんです。そのなかで、自分をもっと高めていきたいという気持ちがある。その気持ちが、表情や態度に出ているだけです」
「35歳が声を出したりすると、おちゃらけて見えるかもしれないですね。でも、それがチームの明るい雰囲気を生み出したり、チームにいい影響を与えられているのであれば、今の立ち振る舞いを続けていきたいです」
数々の修羅場を潜り抜けてきた経験はチームにとってかけがえのない財産だ。
キャプテンの内田篤人は守護神へ感謝の言葉を口にする。「スンテは3回ACLを制覇している。その経験は本当にすごいと思う。そういう経験のある選手が、チーム内にいてくれるのはありがたい」。
副キャプテンの永木亮太も、「大事な試合を前にチームを締める言葉だったり、チームが悪いときはハーフタイムに喝を入れる言葉だったり、良いタイミングで良い言葉をかけてくれる。経験が凄い選手なので、そういう選手の言葉はチーム全員に響く」と、その影響力の大きさを話していた。
そんなスンテが、繰り返し語っているのが、サポーターへの感謝の気持ちだ。「すごく愛されていると感じています」。「アントラーズファミリーという言葉が大好きなんです。日本のクラブを代表して、何としてもタイトルを獲りたいです」。仲間のため、家族のため、勝利への決意と覚悟は誰よりも強い。
「今までいろいろなアウェイを経験して、サポーターの声が非常に力になると気づきました。なので、もっともっと、サポーターの後押しが欲しいなと思う。その後押しに応えられるように、もっとパフォーマンスを上げていく」
背番号1は己の身体一つで強大な重圧と闘う。アントラーズファミリーの声援が、守護神の心を震わせ、血を滾らせたとき、想像を絶する力を発揮するだろう。彼への信頼を、愛情を、声に乗せて、聖地に響かそう。スンテは今夜もアントラーズファミリーの想いを背負い、ゴールマウスを守る。