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「もっと頑張らないといけない。周りの選手に、そう感じさせる存在。それだけで偉大だと思います」

 永木亮太は昨季限りで現役を退いた小笠原満男について語った。「言葉を交わして、どうこうというより、日々の姿勢から学ぶものがあったーー。満男さんの近くで学んだことを活かしていきたい」。

 プロデビューから10年を迎える節目の年、アントラーズにおける永木の立場は変化している。

「周りの選手への声かけだったり、自分自身の立ち振る舞いだったり、今まで以上に意識しながら取り組んでいこうと思いますーー。アントラーズでこういう立場になるのは、なかなかないこと。自分の中では今までとは違った気持ちでやっている」。より一層の覚悟と決意を固めて、今シーズンに臨んだ。

 湘南時代はキャプテンを務めていた永木だが、チーム内では「天然」として親しまれている。本人は否定しているが、試合前に突飛な行動を起こしてチームの雰囲気を和ませたことは、一度や二度ではない。誰からも愛されるキャラクターだ。

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 だが、いざ戦いが始まれば、誰よりも逞しく頼もしい、勇敢な戦士へ変貌を遂げる。ピッチを献身的に駆け巡り、激しいタックルで攻撃の芽を摘む。勝利を掴むためならば、仲間との衝突も厭わない。気の抜けたプレーをみせた選手には、激しく檄を飛ばして叱責する。でも、それは淀みのない純然たる勝利への情熱ゆえ。仲間もそれをよく理解しているからこそ、自然と周囲に熱が伝播していく。表裏のない、ありのままの姿でぶつかることで、組織を旋回させられる稀有な才能の持ち主だ。

 全くタイプは異なるが、勝利への執念、チームへの献身性、という意味では前キャプテンと似ている点があるかもしれない。ピッチ最後方からチーム全体をみているクォン スンテは、「亮太の献身的なプレーは、周囲の選手に刺激を与えています。本当にチームに欠かせない存在です」と、変革期を迎えたチームにおける、永木の影響力の大きさを語っている。

 今シーズンは、チーム事情により、本職のボランチではなく、右サイドバックで起用される試合が多い。本人も中盤でプレーしたい気持ちは少なからずあると言うが、勝利のために与えられた役割を全うし、右サイドバックとして全力でプレーをつづけている。「自分の得意ではないポジションでプレーしているが、非常にいいパフォーマンスをしてくれている」。ACLラウンド16第1戦の試合後、指揮官が永木へ感謝を伝える場面もあった。

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 そんな永木の真骨頂ともいえる場面が、直近のACLラウンド16第2戦でみられた。アントラーズの1点リード(2戦合計2-0)で迎えた前半41分、広島の川辺駿にペナルティエリア内へ進入され、守護神クォン スンテが素早く寄せて対応したが、股を抜かれてしまう。不運にも、ボールはゴール方向へ転がってしまった。失点を覚悟した。だが、立ち塞がったのは逆サイドの永木だった。クォン スンテが前に出た瞬間、咄嗟の判断で素早くゴールカバーに向かうと、ゴールライン際でスライディングしてボールを掻き出し、失点を防いだ。永木の勝利への執念が、チームを救った場面だった。

 永木はこの場面に関して、「サイドバックをやっているので、スンテが出たらゴールカバーに行かなければいけないですし、最終ラインでボールを跳ね返すというのはディフェンスの役目だと思っています」と、当たり前のプレーのように振り返っていた。永木の言う通り、たしかにゴールカバーは当たり前かもしれない。だが、ボランチを本職とする永木は本来ゴールカバーに回る機会の少ない選手。そして、ACL準々決勝がかかった重要な試合で、あの一瞬に反応できる集中力、勝利への執念は誰もが持ち合わせているものではない。どんなときでもチームを思い、勝利のために献身を続ける背番号6だから防げたプレーだったのだろう。

 さあ、いよいよ広島3連戦の最終戦を迎える。ACLから国内リーグ戦へ戦いの舞台を移したが、広島は強い気持ちをもってカシマスタジアムへ乗り込んでくることだろう。だが、我々には勝利への飽くなき渇望を抱いた背番号6がいる。今日も燃え滾る情熱を胸に、アントラーズを勝利へと導く。

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