それは大きな決断だった。2016年、永木亮太はプロキャリアをスタートさせた湘南ベルマーレからアントラーズへ移籍。本田泰人、中田浩二というレジェンドたちが背負った「背番号6」を継承し、新天地でさらなる飛躍を誓った。
だが、永木には厳しい現実が待ち受けていた。小笠原満男、柴崎岳、レオ シルバ、三竿健斗。リーグを代表するボランチの面々が、永木の前に立ちはだかる。ローテーション要員として一定の出場機会は得られたが、重要な試合では先発を外れることも多かった。アントラーズへ移籍してからの3年間。湘南で築き上げた絶対的な主力選手としての地位は、もはや跡形もなく消え去った。
それでも、強力なライバルの存在が永木を成長させた。同ポジションの偉大な先輩、小笠原から勝つためのプレーを学び、己を高めていく。
プレーの把握、予測、準備。派手なプレーではない。全体の動きを見極めながら、状況に応じた的確な判断を下していく。自らがポジションを少し動かせば、相手と味方が自然と動く。「ボランチ」らしい老練な駆け引きを心得た。強力なライバルであり、頼もしい同僚からチームを勝利へ導く術を学んだ。
そして、迎えた4年目のシーズン。ピッチの中央には常に「背番号6」の姿がある。公式戦全4試合で先発出場。変革期に差し掛かったチームを、中盤から豊富な経験で操っている。
「相手は上手いし、攻撃の形が多彩なチーム相手に、流れの中で失点しなかったので、そこだけが収穫になった試合だと思う」
川崎フロンターレとの激闘を終えた永木は、冷静に試合を振り返った。常に次のプレーをイメージしながら、ポジショニングに細心の注意を払い、相手の攻撃を未然に防いだ。最高の準備が出来れば、こぼれ球が相手に渡っても、すぐに絶妙な間合いとタックルでボールを刈り取る。これまで積み重ねてきた経験が、劣勢に立ったアントラーズの生命線となった。
「今日のような試合展開になるのは分かっていた。みんなが準備してきたことをしっかり忠実にプレーで表現できていた。勝利はできなかったが、最低限の勝ち点1をとれたという点に関しては、今後に生きてくると思う」
勝利を奪えなかった悔しさを滲ませたが、すでに視線は次なる戦いへと注がれている。試合から試合へ。チームに欠かせない存在としてプレーする充足感が言葉から感じられた。
そして3月9日、湘南ベルマーレと対戦する。プロキャリアをスタートさせた古巣相手に、成長した己を証明する時が来た。アントラーズを支える中盤の要として、昔、湘南の地で魅せた輝きをここカシマで再び放つため。心に秘めた闘志を燃やしながら、永木は聖地のピッチを駆け続ける。