「戦う舞台へ上るため、絶対に勝たなければいけない。いや、『いけない』じゃなくて、『勝つ』だけ。他の結果はいらないし、大量得点もいらない。ただ、『勝つ』だけ。」
現アジア王者として迎えるプレーオフ。勝って当たり前と目される戦いを前にして、土居聖真は冷静に「勝つ」ことだけを見据えていた。
小学校卒業と同時に地元・山形を離れ、アントラーズの下部組織に加入。6年間の研鑽を経て、念願のトップチーム昇格を果たした。憧れのプロの舞台に足を踏み入れたものの、偉大な先輩たちを前に、出場機会を掴むまで3年を費やした。それでも、もがき苦しむ中で着実に実力を伸ばし、2015年に小笠原満男、野沢拓也らが背負った伝統の「背番号8」を継承。いまやチームを牽引する主力選手へと立場を変えた。
そんな土居は2019シーズンに向けて、これまで以上の自覚と責任感をもって臨んでいる。クラブ史上初のACL優勝を置き土産に、キャプテンの小笠原満男が現役引退を宣言。背中を追い続けた偉大な先輩がピッチを去った。
「うまい選手より勝てる選手になりたい。もっとタイトルを獲らないと。たくさん獲っていけば満男さんみたいになれるかな」
飽くなき勝利への渇望を体現してきた闘将から学んだ「勝者のメンタリティ」が土居の心に刻まれている。常に、勝ちながら、選手を育て、世代交代、また勝ちながら、選手を育て…脈々と引き継がれてきた誇り高き伝統を継承する責任と自覚。チームが変革期を迎えるいま、それを引き受ける覚悟が出来ている。
「相手が決まっていないということに、ストレスは感じない。この時期は相手云々よりも自分たちがどうかということが、大事。みんなで戦って、きちんとしたすり合わせができれば、結果はおのずと出る」
直前まで対戦相手が決まらないことも意に介さない。ただ、目の前の試合に勝つのみ。偉大な先人たちと共に味わった経験が生まれ変わったチームを牽引し、勝利へと導く原動力になってゆく。
「ホント、相手は関係ない。やるのは、カシマの1試合のみ。だから、勝つ。」
身体に刻み込んだ決意。聖地のピッチに全てを解き放った先に、新たな時代が待ち受けているはずだ。「チームを勝たせることができる選手になる」。憧れ続けた偉大な先人の姿に近づくため。勝利だけを目指した闘いに挑む。