「FWが決定機を外すのはよくあること。それでもしっかりとアシストをして取り返したのは、アイツが成長している証拠だと思う。決定機を外した後に“俺が、俺が”となっていたら、たぶん入らなかったから」
11月24日、杜の都で3-0と快勝したアントラーズ。勝利へと前進する2点目を演出したのが、鈴木優磨だった。70分、レオ シルバのパスを受けて左サイドを切り裂くと、正確無比のクロスを送り込む。「優磨からのボールが全てだったので、何とも言えないです」。ダイビングヘッドを突き刺した安西はそう言って笑いつつ、感謝の思いを述べていた。「アイツが成長している証拠」と称えた昌子は「自分で決定機を外した後、最善の選択をしてアシストするというのは“らしくない”かな」と、こちらも冗談交じりに笑いつつ、こう続けている。「優磨が(シュートを)外しても、ボールが集まっている。信頼されている証だと思う」。
「信頼」――。それこそ、22歳のストライカーが追い求めていた言葉だった。大いなる変化に直面したアントラーズにあって、己の責務と内外の期待を自分なりに咀嚼し、ピッチで体現しようともがき続けてきた1年。「本当の意味で信頼されるまでに、半年くらいかかったと思います」。優磨はそう言って、苦い記憶をあえて改めて紡ぎ始めた。
「去年の後半に自分の中で低迷した時も、今年に入ってからも、チームメートに信頼されることがいかに大事かがわかりました。“アイツに渡しておけば大丈夫”という安心感も含めて、信頼されていればボールが集まってきますからね」
1年前、最終節での首位陥落という屈辱と向き合ったチームで、優磨は不甲斐なく情けない自身の状態を悔いていた。「去年は単純にコンディションが悪くて、明らかに動ける体じゃなかったんです」。甘えや緩みがあったこと、そんな状態で飛躍できるほどフットボールは簡単ではないということ。突き付けられた現実から、目を逸らすことなどあってはならない。だから優磨は、肉体改造に着手した。「毎日走っていたし、食事や体脂肪に気をつけていました」。プロフットボーラーとしての4年目を前に、胸の底を焦がす種火に駆り立てられるように――。
そして迎えたシーズンイン。優磨はACL初戦で先発フル出場を果たすと、自身初となるJ1開幕スタメンの座を掴み取る。身体を張ったポストプレー、切れ味鋭いドリブル、労を惜しまないプレス――。プレーの数々が今までのそれとは異なる水準であることは、誰の目にも明らかだった。進化を印象付けながら、それでも「入りは大事だけど、“調子がいいだけ”と思われていたかもしれないですから」と気を引き締め、「このコンディションが1年続かないと意味がない」と自らに言い聞かせながら、日々鍛錬を重ねていった。そして気付けば、ワールドカップによる公式戦中断まで、全ての試合でピッチに立ち続けていた。
「前までは夢生くんにボールが集まっていたけど、自分に集まってくるようになるためには、何かをしないといけない。1試合の中でゴールやアシスト、少なくとも点に絡まなければいけない。そう思いました」
22歳にさらなる燃料を注いだのは、夏に直面した大きな変化だった。植田、ペドロ ジュニオール、そして金崎。いわゆる“レギュラーナンバー”を背負った3選手がクラブを去り、2人の頼もしき新戦力、チョン スンヒョンとセルジーニョが加わった。しかし、新たなるストライカーの名がアナウンスされることはない。「補強をしなかったのは、自分への期待だと思いました」。クラブの判断を己へのメッセージとして受け止め、その意味を咀嚼し、責任と自覚を動力に変えて突き進んできた日々――。「FWなので、チームを勝たせることが大事です。試合に出続ける中で、そう実感しています」。多岐に渡る任務を完遂すべく縦横無尽に駆け続け、幾度となく激しいタックルを受けてピッチに叩き付けられる日常に身を置きながら、背番号9は必死に戦い続けてきた。
「自分がコンスタントに出場し始めてから初めてのタイトルが懸かっているので、何としてでも獲りたいんです」
11月9日。テヘランでの死闘へと向かう前日、優磨が刻んだ決意だ。アントラーズDNAの継承者として、クラブの歴史に新たなる章を書き加えるために――。献身を誓った背番号9は、観客10万人超の敵地で身を粉にして走り続けた。不慣れな芝、ブブゼラにかき消される指示の声。リスク回避を徹底し、ロングボールを前線へ放り込む選択を繰り返す時間は、FWにとっては過酷な消耗戦だった。それでも優磨は、その体を擦り減らすがごとく走り続けた。「最終的に、チームが勝っていればいいんです」。相手との交錯で無念の負傷に見舞われた後も、ベンチで仲間たちとともに戦い続けた。そして、ついに鳴り響いたホイッスル――。「満男さんやソガさん、レジェンドの人たちが獲ったことがないタイトルを、一緒に獲ることができて嬉しかったです」。悲願のACL制覇を成し遂げ、歓喜を爆発させた。
「優勝した実感が湧きました」。多くの出迎えを受けた成田空港で、優磨は穏やかな笑顔を見せた。チームで唯一、全14試合に先発出場。アジアの頂へ上り詰めた道のりでの絶大なる貢献を評価され、個人賞の栄に浴した。「2点しか取っていないし、“疑惑のMVP”ですけどね」。そう言って苦笑いしつつ、祝福を受けて「ありがとうございます」と手を握り返した22歳。その足首は、スニーカー越しにもわかるほどに腫れ上がっていた。
「10アシストはいいにしても、11得点は少ないです。最低でも15点は取っておかないといけなかったと思います」
リーグ戦32試合出場、11得点10アシスト。公式戦51試合出場、17得点。ACL決勝を控えて大幅な先発変更が断行されたリーグ2試合、そしてコンディションの問題でベンチ外となったルヴァンカップ準決勝の2試合、テヘランでの死闘から11日後の天皇杯・甲府戦を除く全ての戦いで、背番号9はピッチに立った。しかし、優磨の胸に充足感は宿らない。「チームを勝たせられる、苦しい時に点を取れる選手」。思い描く理想像を真に体現する境地にはまだ、至っていないのだから。「勝たせられる選手としての比較で、パトリック選手に完敗したと感じています」。そう言って屈辱と向き合った、9月1日の広島戦。足早にスタジアムを後にした10月7日の川崎F戦、そして4日前も――。
強く逞しく進化を遂げたシーズン、ついに迎える最終盤。2018年、聖地でのラストマッチ――。この舞台に相応しいのは、背番号9のゴール、そして咆哮をおいて他にない。「決めるべきところで決めるのが、本物のストライカー」。だから優磨は、走り続ける。戦い続ける。チームへの献身を誓いながら、ゴールへの飢えを隠すことなく。宿敵相手の決戦を制し、ファイナルへの切符を掴み取るために。