「悪い時は、自分のせいです。いい時は、ここにいるみんなのおかげです。だからアントラーズは、他のチームが絶対にできない、20冠というタイトルを獲れたと思っています」
12月1日、カシマスタジアム。鳥栖と対峙した90分、ゴールネットを揺らすことはできなかった。3位を確保し、来季のACLプレーオフ出場権獲得という最低条件を達成した一方で、聖地のピッチを包んだ雰囲気は様々な感情が交錯するものだった。リーグ最終節、0-0。状況は違えど、屈辱の記憶を想起させる結末だったことは確かだ。「去年と同じ。より成長した姿を見せたかった」。ミックスゾーンに姿を見せた昌子は、胸に募る悔しさを隠そうとはしなかった。
だが、ロッカールームを後にする数十分前のセレモニーで、チームリーダーが不甲斐なき90分を振り返ることはなかった。「ACLは皆さんの勝利です。おめでとうございます」。どんな時も“共闘”を胸にピッチに立つ背番号3は、努めて前向きのベクトルを放っていた。アジア制覇という悲願達成の裏で、J1とルヴァン杯を失った悔しさが消えるわけがない。しかしその事実に言及すれば、スタジアムは怒号に包まれるかもしれない。逆に言及しなければ、背番号12の心中はもやが立ち込めたままかもしれない――。幾多もの感情が行き交うピッチに身を置き、思いを汲み取り、そして昌子は決断した。その視線を、前へ、次へ――。
「これからも一緒に、ファミリーとしてともに戦い、21、22、23と、タイトルを獲り続けられることを願っています。まだ試合は続きます。ともに戦い、ともに笑いましょう」
鳥栖戦の翌朝、クラブハウスでは次なる戦いへの準備が始まっていた。中3日、再び聖地で迎える大一番。天皇杯準決勝、浦和レッズ戦――。ファイナルへの切符を懸けた大一番へ、チーム一丸で集中力を研ぎ澄ましていった。もはや日常と化したミッドウィークの公式戦へ照準を合わせ、各々が心身の状態を見極める。コンディションを整え、そしてミーティングを重ねて意志を統一した。試合前日には紅白戦も実施し、攻守の連係を改めて確認。セットプレー、そしてPK練習にも取り組み、ノックアウトマッチを制するために最善の準備を進めていった。
「カシマスタジアムで戦う今年最後の試合なので、サポーターに笑顔で挨拶できる試合にしたい」
前日練習を終え、昌子は再び前向きのベクトルを放っていた。息つく間もなく突き進んできた連戦の日々を見守り、四方から注がれる情熱を受け止めてきた聖地が、ついに迎える今年最後の戦い。2018年のアントラーズにとって、鳥栖とのリーグ最終節が56回目の公式戦だった。リーグ戦が全52試合制だった1995年、そして国内全ての大会で決勝まで進出した1997年と並び、シーズン毎の公式戦数は歴代最多に。過去2回と異なり、今年がワールドカップイヤーだということ、約2ヶ月もの中断期間がシーズンの合間に確保されていたことを思えば、突き進んできた連戦の日々がいかに高密度で、過酷なものであったかは明白だ。そんな道のりを思い返し、そして強く思う。ここまで来たら、最後まで駆け抜けてみせる。チーム一丸で、アントラーズファミリー全員で――。
さあ、ファイナルへの切符を懸けた大一番が始まる。浦和もまた、並々ならぬ決意とともにカシマへ乗り込んでくることだろう。オリヴェイラ監督は前日練習を公開し、多くのサポーターの来場を呼び掛けたという。慣れ親しんだ鹿嶋の地で勝利を掴むべく施された魔法を、アントラーズファミリー全員の情熱で凌駕しなければならない。今夜は情熱の指揮官、68回目の誕生日でもある。2009年12月5日、内田のピンポイントクロスからリーグ3連覇の歓喜を爆発させたあの日から、ちょうど9年。過ぎ去った年月を思い返し、対戦相手として再び対峙する光景を描き出した時、胸に宿るのは勝利への闘志をおいて他にない。
「どんな時も100%でプレーします。タイトルを獲るために戦うだけです」
19歳で掴んだプロ初タイトルの味をアジアの頂で噛み締めた安部は、次なる栄光への渇望を真っ直ぐな言葉で刻んでいた。テヘランでの死闘を制した直後、クォン スンテと曽ケ端、百戦錬磨の両守護神も「天皇杯を獲らないと」、「次のタイトルにつなげないと」と決意を述べている。そして、アントラーズスピリットの神髄は「ここで満足せず、次のタイトルを目指してやっていきたい」と、ファミリーに語りかけていた。だからこそ、今夜も総力戦で。目前の戦いに全精力を傾け、全身全霊で戦い抜こう。今季最後のカシマスタジアムで、歓喜とともにファイナルへと突き進もう。