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「大事な試合でフレッシュな選手たちが頑張ってくれて、勝ち点3を取れてよかったです。自分のいいセーブというよりも、味方に助けてもらったからこそ、できたプレーだと思っています。勝つことができてよかったです」

 多くの若武者がメンバーリストに並んだ、3日前のC大阪戦。アントラーズの未来を担う面々が躍動した90分は、たった1つのスコアで秩序を失いかねない戦いでもあった。鮮烈さと脆さとが同居するピッチだったからこそ、百戦錬磨の守護神がもたらした安心感は計り知れない。最後尾からのコーチングで道筋を示し、勇気を与え、そして起死回生のビッグセーブを連発。最後の一線で若きチームを救い続けたその先で、かけがえのない3ポイントを掴み取ってみせた。“MVP級の活躍”と称して、異論を述べる者はいないだろう。それでも、クォン スンテが自賛の言葉を連ねることはなかった。いつもと変わらぬ、穏やかな笑顔とともに――。真のプロフェッショナルが紡いだのは、仲間への賛辞と感謝の思いだった。

「全員で決勝へ行くという目的を達成できて、本当に嬉しいです。今日はたまたま、自分が得点する状況になりましたが、誰が点を取ってもいいんです。点を取れた一番の要因は、チームメートが信頼をしてくれていること。だからこそ、落ち着いてプレーできるんです」

 死闘を繰り広げ、底力を見せ付けた水原の夜。10月24日、ACL準決勝第2戦。ファイナルへの切符を力強く手繰り寄せたのは、セルジーニョのファインゴールだった。2-3で迎えた82分、ペナルティーエリア中央で見せた煌めき。トラップの直後、瞬く間に右足から放たれた強烈な一撃が、ビジタースタンドが待つゴールへ突き刺さる。利き足と見紛うほどの超絶技巧を前に、水原三星の面々はただ立ち尽くすしかなかった。セミファイナルの180分でアントラーズが記録した6得点全てに寄与するとともに、2試合で唯一の“3つ目のアウェイゴール”を決めたのが背番号18だ。決勝進出の立役者はしかし、己の輝きを誇ることはなかった。穏やかに、時に白い歯を見せながら――。誠実な好青年が刻んだ言葉は、仲間への信頼と愛情に満ちていた。

「ACLでは、Jリーグとは絶対的に違う大会であるということを認識しなければいけません。環境や対戦相手、主審の笛も違いますから、それを認識して戦っていかないと」

 2006年、ルーキーイヤーに成し遂げた初制覇。そして2016年、キャプテンとして到達した頂点。ACLを2度制している守護神は、アントラーズを未踏の景色へと導くべく、魂の戦いを続けている。「自分は助っ人として来ていますし、チームの勝利に貢献するために、タイトルを獲るためにプレーしています」。日本での1年目、その目的を達成することはできなかった。だからこそ、今年こそ――。鹿嶋で迎えた2度目の秋、不退転の決意とともに歩みを続けている。

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 今大会、スンテはグループステージ2試合とノックアウトステージ全6試合に出場。グループHの第2節、極寒の水原で起死回生のPKストップを見せれば、上海上港との対峙では鬼迫のファインセーブを繰り返した。フッキ、オスカル、エウケソン。元セレソンのアタッカーたちを無力化させ、“鬼門”とも表現されたラウンド16の壁を打ち砕く立役者になった。「突破するまでに長い時間がかかりましたけど、少しでも役に立ててよかったです」。笑顔とともにつかの間の安堵を見せ、「この瞬間だけを楽しんで、でもすぐに切り替えようと思っています」と次なる戦いへと視線を移した。

 そして迎えた、準々決勝。天津権健との対峙、聖地での“前半90分”でベールを脱いだのがセルジーニョだ。「アントラーズを優勝させることが最大の目標です。一つでも多くのタイトルをもたらしたいです」。決意を胸に宿した23歳は8月4日に来日し、19日の横浜FM戦で初先発初出場。24日の磐田戦でもピッチに立つと、アントラーズでの3試合目にしてACL初見参となったのが準々決勝だった。1-0で迎えた72分、迷うことなく左足を一閃。挨拶代わりのミドルシュートを突き刺し、驚嘆と歓喜で聖地を包む。「第一印象が大事なので、できれば1試合目で点を取りたかったですけどね」と言いつつも、その確かな実力を証明してみせた。そしてこのスコアとともに、大車輪の活躍が始まる。9月18日、マカオでの第2戦ではヘディングシュートで先制点。ノックアウトマッチで抜群の勝負強さを示し、アントラーズファミリーの信頼を揺るぎないものとしてみせた。

 アジアの頂へ、道のりは続く。ファイナルを懸けた準決勝は、スンテにとって忘れ得ぬ戦いとなった。水原三星との対峙、聖地での第1戦。意地と意地がぶつかり合い、秩序を失って熱を帯びたピッチで発生した小競り合いの中心に、背番号1の姿があった。「やってはいけないことでしたが、チームのスイッチを入れようとしたんです」。アントラーズファミリーは奮い立った。猛攻撃を仕掛けた後半、なかなかスコアを刻めずにいたが、劇的なシナリオをセルジーニョが描き出してみせる。82分に同点弾を決め、そして――。アディショナルタイム、聖地を沸騰させた内田の逆転弾は背番号18が繰り出したFKが起点だった。「ホームでの自分たちのパワーはわかっていました」。“前半90分”終了、3-2。アドバンテージを手に、3週間後に韓国へと渡ることとなった。

 そして迎えた、敵地での第2戦。俺たちの守護神がボールを持つたびに、水原の夜空にブーイングが響き渡る。だからこそ、何としてでも突破しなければならなかった。トリコロールの圧力を背にした後半、立て続けに喫した3失点。それでもスンテは、魂のセーブを繰り返して反撃の時を待ち続けた。果たして、願いは叶えられた。「守備陣があれだけ頑張っているのだから、自分は攻撃の選手として点を取らないといけないと思っていました」。セルジーニョが突き刺した一撃で、2試合合計6-5と再逆転に成功。それ以上のスコアを、不屈の守護神が許すべくもなかった。ホイッスルが鳴り響く。背番号1が空を見上げ、思いを込めたガッツポーズを見せる。どんな時も信頼を紡ぐ仲間たちとともに、スンテは誇りと矜持を守り抜いてみせた。

 スンテは言う。「アントラーズファミリーという言葉が大好きなんです。日本のクラブを代表して、何としてもタイトルを獲りたいです」と。古巣の全北現代を破った宿敵との対峙を乗り越え、ついにたどり着いたファイナルだ。その視線の先に映るのは、栄光の瞬間をおいて他にはない。

 そしてセルジーニョは語る。「このチームで結果を出したいという一心でいます」と。中東のクラブからも届いていたというオファーに断りを入れ、「ジーコから興味を持たれたと聞いて加入を即決した」アントラーズで、初めて迎えるタイトルマッチだ。その視線の先に映るのは、栄光の瞬間をおいて他にはない。

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 スンテとセルジ。アントラーズを攻守に支え続ける2人の存在なくして、決勝まで上り詰めることなどできなかった。幾多もの巡り合わせを、どんな時も誠実な言葉の数々を、2人が鹿のエンブレムを選んでくれた喜びを思いながら、いざ――。アジアの頂へ、聖地での“前半90分”が幕を開ける。
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