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 今年こそ、アジアの頂へ――。ついにたどり着いたファイナル、聖地で迎える“前半90分”。アントラーズファミリー全員で紡ぎ続けてきた物語に、新たなる栄光の章を書き加える戦いが始まる。AFCチャンピオンズリーグ決勝、第1戦。全身全霊で戦い抜き、まだ見ぬ景色へと突き進む決戦が幕を開ける。

 10月24日、準決勝第2戦。未体験の密度で待ち受ける連戦の日々、それを突き進む中で強く逞しく進化を遂げてきた選手たちは、敵地で負ったビハインドを跳ね除ける底力を示してみせた。後半開始から圧力を高めた水原三星にわずか8分で3つのスコアを奪われても、沸騰するトリコロールの歓喜に四方を覆われても、鹿のエンブレムを纏う矜持が揺らぐことはなかった。1-3から3-3へと挽回し、2試合合計6-5で難敵を打ち砕く。「非常に難しい試合だった。でも、チームとして戦えた結果だと思う」。大挙して詰めかけた報道陣の前で、鈴木は準決勝突破を誇った。そして続けた。「まだ獲ったことがないACLのタイトルを、必ず獲りたい」と。

 チームは翌朝に韓国を発ち、鹿嶋へ帰還した。2日間の充電期間を挟み、土曜日にクラブハウスへ再集合。1週間後の決戦を見据えながら、しかし目前に迫るC大阪戦に照準を合わせながら、チーム一丸で準備を進めていった。次の土曜日に控えたファイナルという舞台がもたらす高揚感が、その視線をイラン王者との対峙へと向かわせかねない状況だったことは事実だ。しかしどんな時でも目前の戦いに全てを注ぎ込み、勝利を掴み取りに行くのがアントラーズ。「自覚を持って日々を過ごし、勝つための準備を怠らず、全身全霊で準備をすること」。ジーコスピリットを胸に刻み、各々が最善を尽くして集中力を研ぎ澄ましていった。

「水原三星戦で同点に追い付いて、決勝進出という結果を出した。その姿を、他の選手も見ていた。選手たちの成長、あれだけ緊迫した試合であれだけのアクションを起こすことができる逞しさが出てきたのだと思う。若い選手も続いていってほしい。そうすれば、チーム力はワンランク上がる」

 ファイナルを見据えつつ、目前の90分に全てを注ぎ込む――。指揮官の決断は大胆なメンバー変更だった。虎視眈々と牙を研ぎ続けた若武者たちを先発に抜擢し、大いなる期待と勝利への希望をその背中に託す。「勝てばチームに勢いがつく」。誰もが己の任務を自覚し、勝利だけを目指して聖地のピッチへと足を踏み入れた。「誰が出ても、アントラーズは強くなければならない」。ターンオーバーではない。これが今夜のベストメンバーだ。そう言い切るためには、勝利という存在証明が必要だった。

 果たして、若武者たちは力強く戦い抜いてみせた。粗削りでも、発展途上でも、そのベクトルは常に前へ向き、そして勝利という一点へ定まっていた。J1初先発の田中と山口が果敢なチャレンジを繰り返し、4年目にして初めてリーグ戦のピッチに立った久保田も開始直後から巧みなスペースワークで輝きを放つ。そして勝負を決めたのは、小田のヘディングシュート。「周囲への感謝と、暴れたいと思うくらいの嬉しさがあった」。気迫を込めたプロ初ゴールが、20歳の初々しき心境とともに聖地を歓喜で包み込んだ。1-0。DNAの継承を強烈に印象付けるスコア、ウノゼロ――。「このクラブは勝ってこそ評価される。みんなで勝ちに行く姿勢を出せたし、全員で戦った結果だと思う」。左サイドで奮闘した町田は、自信に満ちた表情で頷いていた。

 「決めたい、勝ちたいという気持ちが伝わった試合だった。ここで勝って勢いをつけるんだという思いが、今日の結果を生んだと思う」。若武者たちの躍動を最後尾から支えた昌子は後輩の輝きを称えた後、「満男さんは背中で語る。今日のプレーを若手が感じることは大きい。一緒にプレーできるのは本当に幸せなこと。自分としても、いろいろなものを感じる試合だった」と、百戦錬磨の闘将が示した姿勢に敬服していた。闘うことの意味を体現し続け、勝利への道標であり続けた背番号40。そして鉄壁の守護神も起死回生のビッグセーブを連発し、アントラーズを守り抜いた。「経験ある選手がしっかりとまとめてくれた。今日出ていない選手にも火がついたと思う」。今季ここまでの50戦全てで試合メンバーに名を連ねている犬飼が言えば、金森も「今日出なかった選手たちも“やらないといけない”と思ったはず」と口を揃えた。先発、ベンチ、メンバー外とあらゆる立場を経験し、もがきながら進んできた背番号14は「チームが勝つために、選ばれた選手が全力を出す。全員の力を証明する」と、チーム一丸の意味を改めて強調していた。

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「次はACLだぞ!勝つぞ!」

 かけがえのない3ポイントを手に持ち帰ったロッカールーム、飛び交ったのは互いを鼓舞する大声だった。いよいよ迎えるは決戦の時、ペルセポリスFCを迎え撃つ“前半90分”だ。リーグ優勝11回を誇る名門は、2年連続でACLベスト4入りを遂げた難敵。準決勝ではカタールの雄アル・サッドを破った。彼らもまた、アジア制覇を渇望してファイナルへ足を踏み入れるに違いない。互いの初制覇を懸けたタイトルマッチ、まさに死闘となるだろう。アントラーズレッドの情熱で、イラン王者を凌駕しなければならない。

「このクラブが勝者たる歴史を築き上げたのは、監督、選手、スタッフ、フロント、サポーターが“このクラブを強くしよう”という思いで全身全霊で取り組んできた成果。世界的に見ても、ビッグクラブはタイトルを常に獲ってこそ、という存在だ。まずはピッチ内で自分たちが勝たなければ意味がない。全てはピッチ内の結果だ」

「Jリーグで最多タイトルホルダーになった。国際タイトルを獲っていないと言われるが、世界2位になった日本唯一のクラブでもある。そして今季、ACLという、このクラブにないタイトルも目の前にある。獲ることができる状況にあるんだ」

 ジーコの言葉を噛み締め、そして思い起こしてみよう。前身のアジアクラブ選手権、初出場は1997年。Jリーグと同一日に試合を組まれ、チームを二分して大阪とシンガポールへと遠征した。1998年2月、代表6選手を欠く中で臨んだ準々決勝リーグで、ジョルジーニョとマジーニョが骨折する悪夢もあった。2002年、後半アディショナルタイムの失点で突破を阻まれた夜もあった。リーグ3連覇を遂げた日々でさえ、アジアの舞台では高い壁が立ちはだかり続けていた。3年前も、そして去年もそうだ。ラウンド16はいつしか“鬼門”と表現され、失意の涙とリベンジへの誓いを繰り返す不甲斐なき記憶が刻まれた。

 そして迎えた、2018年。「この180分に全てを懸けろ!壁を打ち砕け!」。闘争心を掻き立てる横断幕が掲げられる中、アントラーズはついに突破した。ラウンド16で上海上港を撃破し、突如の会場変更と台風直撃のマカオ遠征に直面した準々決勝で天津権健を圧倒。そして準決勝、水原三星との激闘――。2月のグループステージ初戦から、本当に長い道のりだった。移籍を決断した金崎、欧州へと飛び立った植田が刻んだスコアも、無念の離脱を強いられたレアンドロが今季唯一決めたボレーも、聖地を沸騰させた内田の一撃も、ピッチに立つたびにネットを揺らすセルジーニョの輝きも、母国で誇りを守り抜いたスンテとスンヒョンの意地も――。全ての思いを紡ぎ重ねたその先で、アントラーズはファイナルへと向かう。

「まずはホームで、いろんな人の思い、応援の思いを背負って、感じて、楽しみたい」

 アジアの舞台でも鮮やかな色彩を描き続ける西は、らしい言葉で大一番を見据えていた。「行ったことがないし、楽しみでもある」という敵地アザディスタジアムは8万超を収容する。彼らは四方を囲い込み、大音量でアントラーズに迫ってくるに違いない。満員のカシマスタジアムをもってしても、その数では及ばない。ならば今日、彼らの2倍、いや、それ以上の熱量と愛情を、イラン王者を凌駕する情熱を、常緑のフィールドへと注ぎ込んでほしい。万難を排して聖地へ足を運び、ともに戦ってほしい。

 ACL決勝、第1戦。“こえる”ための戦い、最終章。鹿のエンブレムを纏う誇りとともに、勝利への決意と闘志を胸に。アントラーズファミリー全員で、頂への道を突き進もう。  
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