PREVIEW

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「シーズン終盤になると、ウェイトが重い試合が増えてくる。“自分が”ではなく、チームとして戦わなければいけない。全員が“今、何をしなければいけないのか”ということについて整理ができていて、それぞれが役割をしっかりと果たせていると思う」

 迷うことなく振り抜いた左足で、アントラーズレッドを沸騰させたセルジーニョが静かに語った。4連続完封、5得点、6連勝――。会心の数字を並べた神戸での90分。ノエスタのミックスゾーンで、上昇気流に乗った要因を探る質問が飛ぶ。今や不可欠な存在となった背番号18は「クラブへの忠誠心だと思う」と返した後、こう続けた。「今のチームの姿勢を見てもらえれば、団結力や状況への理解力というものをしっかり表現できていると思う」。穏やかな口調にはしかし、確かな自信が宿っていた。

「チームとして、展開を読みながら試合運びをすることができた」と町田は言った。「チームとして、ボールを奪いに行くタイミングを共有できている。今のチームにいるメンバーは誰が出ても、チームのために戦える」。充実の表情で頷いていたのは犬飼だ。セルジーニョの言葉を裏付けるかのように、選手たちは口々に「チームとして」という枕詞を添えながら、敵地での戦いを振り返っている。約2ヶ月ぶりにピッチへと帰還した中村も「みんながハードワークをして、勝利にこだわるという部分をしっかりと表現できたと思う」と、一丸で掴んだ勝利の意味を語っていた。

「これからも連戦が続くけど、全ての試合で勝てるようにみんなで戦っていきたい」

 足早にチームバスへ乗り込んだ鈴木の視線は、既に次なる戦いへと向けられていた。勝利を告げるホイッスルは充足や安堵をもたらすものではなく、息つく間もなくやってくる90分への準備を始める合図だ。わずかな時間でコンディションを整え、集中力を研ぎ澄ましていく日々に終わりはない。

 10月1日。猛威を振るった台風が過ぎ去った鹿嶋は、夏の再来を思わせる暑さに見舞われた。つかの間の充電期間を経て再集合した選手たちが、聖地で迎える“前半90分”へと照準を合わせていく。リカバリーのメニューに努める者、虎視眈々と出番を窺いながらボールを追う者――。「単なる“個”が必要なのではなく、“チームのための個”が必要。それぞれに長所と短所があって、短所を互いに埋めていくのだから」。セルジーニョの言葉が、トレーニングの光景にオーバーラップする。チーム一丸で、全ては勝利のために――。

「今後のサッカー人生も変わるというくらい、大きな大会だと思う。必ず獲りたい」

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 10月2日。瞬く間に訪れた試合前日、指揮官は入念なミーティングで全員の意思を統一した。青空に恵まれたクラブハウス、そこにあったのはいつも通りのチームの姿。報道陣に公開された冒頭15分では笑顔とともにウォーミングアップを行い、そして張り詰めた緊張感を纏いながら決戦への準備を進めていく。「必ず獲りたい」。前日練習を終え、胸に宿る決意を強い言葉で刻んだのは永木だった。「目標は優勝。2試合の合計で勝って、決勝に行かないと」。カシマで戦う第1戦、“前半90分”の重要性は誰もが理解している。背番号6に呼応するように、山本も言葉を連ねた。「ACLはホーム&アウェイの戦い。最初の90分を無失点で抑えて勝ち切れれば」。

「タイトルを獲るために戦っている。自分たちはまだ何も成し遂げていない」

 腕章とともにアントラーズを牽引する遠藤は今、この言葉を繰り返し刻んでいる。右足ボレーでネットを揺らした札幌の夜も、120分の激闘を制した雨の聖地でも。そして、水原三星との対峙を控えた、クラブハウスでも――。「優勝するために、勝ち続けなければいけない」。その決意を、今夜も必ず。

「Jリーグで最多タイトルホルダーになった。国際タイトルを獲っていないと言われるが、世界2位になった日本唯一のクラブでもある。そして今季、ACLという、このクラブにないタイトルも目の前にある。獲ることができる状況にあるんだ」

「まずは第1戦に集中して取り組めば、いい成果を得られると思っている。やるべきことに集中して取り組めば、おのずと結果はついてくると思う」

 さあ、ファイナルへの切符を懸けた“前半90分”が始まる。大一番へ向かう前に、アントラーズスピリットの神髄が刻んだ言葉を今一度噛み締めよう。いつ何時も変わらない、変わることなどあってはならない姿勢を貫こう。目前の戦いに全精力を傾け、全身全霊で戦い抜こう。その先で必ず、道を切り拓くことができると信じて。

 ACL準決勝、第1戦。“こえる”ための戦い、第3章。鹿のエンブレムを纏う全ての者が渇望してやまない栄光の章を、アントラーズの歴史に書き加えるために。チーム一丸で、勝利へと突き進もう。

 
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