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「今日はパトリック選手にレベルの違いを見せ付けられました。俺は点を取れなくて、パトリック選手は決めた。うちにパトリック選手がいたとしたら、どうだったかなって。勝たせられる選手としての比較で、完敗だったと個人的に感じています。チームで戦うのはもちろん大事ですけど、1対1で勝てる選手がいっぱいいた方が間違いなく強いので、そう考えた時に…」

 地元メディアが逆転勝利のホームチームへ殺到し、ビジター側の取材エリアは閑散としていた。チームバスへ続く細い通路がミックスゾーンとして設けられたスタジアム。屈辱的な惨敗を喫し、選手たちは険しい表情で足早に歩を進めていく。金髪のゴールハンターもそうだった。だが、広島まで駆け付けた番記者たちを視界に捉えると、その歩みは速度を緩めることとなる。「“確実に負けた”というのは、最近ではあまり感じなくなってきているんですけど…」。突き付けられた現在地、屈辱の思いを己に言い聞かせるように、鈴木優磨は言葉を並べ始めた。

「ただでさえ巧い相手に球際のところで負けていたから。これを毎週続けている広島は、首位のチームなんだなって。観ている皆さんもそうでしょうけど、やっている俺らはものすごく、ものすごく、差を感じました」

 敗戦の後は言葉少なにスタジアムを立ち去る22歳だが、この夜は違った。心の底から悔しくて、不甲斐なくて――。リーグテーブルとゴールランキングの頂をひた走る面々への敬意は、単なる賛辞とは似て非なるものだ。優磨の眼光は鋭く、視線が下を向くことはなかった。エースとしての道のりを突き進む自覚を纏っているからこそ、アントラーズを牽引する責任を背負っているからこそ。「差を感じた」という屈辱的な言葉をあえて刻んで残すことで、己を突き動かす燃料にしなければ――。そんな義務感にかき立てられているようにも見えた。

「夢生くんはチームを勝たせていた人。ダメージがないと言ったら嘘になるけど、プロとはこういうものだと思います。期待も感じますけど、気負い過ぎずに“俺は俺らしく”やらないと。全部“俺が、俺が”となってしまうと、大事な時に力を発揮できないと思うので」

 兄のように慕い、多くを盗み、学び、そして切磋琢磨を続けてきた金崎がアントラーズを去って、1ヶ月半が経った。「10」が抜けた前線、エースの地位を継承するのは背番号9をおいて他にはいない――。大いなる期待を背負い、決意を胸に立った長居のピッチで、優磨はゴールネットを揺らした。7月25日、C大阪戦。自陣からのスルーパスを受け、相手DFとの並走からペナルティーエリアへ進出すると、GKとの駆け引きを制してループシュートを放ってみせた。「狙い通り。あの1本を逃したくなかった」。思い描く理想像へと突き進む日々は、会心のゴールとともに幕を開けた。「あの人のように、チームを勝たせられる選手になりたい」。金崎の移籍が発表された翌日の夜のことだった。

 しかし、真夏の連戦は平坦な道のりではなかった。「なかなか体が言うことを聞かない場面もあったけど、気持ちで戦った」。そう振り返ったのは、8月5日の清水戦。「ゴールというより、シュートから遠ざかっている。改善しないと」と誓って臨んだ11日の名古屋戦では、5回ものチャレンジでゴールを脅かしてみせたが、ネットを揺らしたのはPKのみ。そして待っていたのは、大敗という屈辱だった。振り返ってみれば、長居のゴールネットを揺らした後、8月末までの8試合で刻んだスコアは1つだけ。「決めるべきところで決めるのが、本物のストライカー」。その言葉と乖離した己への怒りから、近寄ることすらはばかられるかのような表情でスタジアムを後にすることも少なくなかった。

「優磨にエリア内で仕事をさせるのが大事だと思う。得点を取るところだけに集中してもらうように」

 前線からのハイプレス、サイドに流れてボールを受けるポストプレー、そしてフィニッシュワーク。多岐に渡る任務を完遂すべく献身し、警戒を強める相手から激しいタックルを受けてピッチに叩き付けられる日常に身を置きながら、背番号9は必死に闘い続けている。そんな22歳の苦心を知る内田は、ゴールハンターの本能を解き放たせるべく、バックアップを誓っていた。「アイツは常に得点に飢えているからね。若いけど、夢生がいなくなって、そういう存在になっているから」と。優磨のゴールこそが、アントラーズを浮上させる――。「そういう存在」との表現に、信頼と期待が滲んでいた。

 「結果を残すことでしか認めてもらえないと思うので、狙い続けたい。自分の仕事は点を取ること。点を取って、チームを勝たせること」。そう言って幕を開けた2018シーズン、優磨はアントラーズでただ一人、全ての試合でピッチに立っている。公式戦36試合出場、14得点。J1、ACL、天皇杯を並行して戦う日々にあって、誰もが認める不動の地位を築き上げたことは間違いない。天津権健戦前日、中国メディアが大岩監督へ名指しで評価を尋ねたこともまた、その存在が確固たるものである証だろう。

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 「苦しい時に点を取れる選手、相手が嫌がることをできる選手になりたい」。2018年の37試合目は今季4つ目の大会、ルヴァン杯の幕開けだ。屈辱の惨敗から4日、難敵と対峙する大一番。アントラーズDNAの継承者として、チームを牽引するエースとして――。鈴木優磨、22歳。「チームを勝たせられる選手に」。決意の証を、今夜必ず。
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