PREVIEW

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「バックパスに対するプレッシャーが速かったですし、シュートブロックのところでも全員がすごく集中しているように感じました。あのくらいの強度でやらないと」

 悔しさを押し殺して言葉を並べたのは安西だった。「前から来る圧力を感じました。観ている人もそうだと思いますけど…」。険しい表情で絞り出し、90分を振り返ったのは山本だった。広島戦、1-3。電光石火の速攻で均衡を破っておきながら、セットプレー2発とショートカウンターに沈んだ。敵地で喫した、屈辱の惨敗――。リーグ首位を走る相手が対人戦で発揮する強度は相当なものであると、誰もが警戒していたはずだった。だが、選手たちが「圧力を感じた」と口々に語ったように、アントラーズは後退してしまった。必死の反撃を仕掛けても、一度負ったビハインドを挽回することはできなかった。

 25試合で9敗目。混戦を極めるリーグテーブルの中央に沈み、頂への距離は遠ざかってしまった。「上に行くために、勝たなければならない試合」。広島へ発つ前に決意を刻んでいたからこそ、重くのしかかる現実と向き合う選手たちの表情は一様に硬いものだった。

 だが、下を向く時間などない。安西が「切り替えて、ルヴァンカップでしっかりと勝ちたい」と言い残してチームバスへと向かったように、息つく間もなく戦いは続いていくのだから。公式戦8試合が組まれた9月、4つの大会を並行して戦う日々。チームは鹿嶋へと戻り、奮起を誓ってトレーニングを再開した。次なる戦いは、JリーグYBCルヴァンカップ プライムステージ。今季4つ目の大会は、約2ヶ月後にファイナルを迎える短期決戦のトーナメントだ。準々決勝、対峙するのは川崎フロンターレ。7月29日のオープンドロー、内田がマッチスケジュールを確定させた瞬間から、アントラーズファミリーは心の奥底に闘志の種火を宿し続けてきたはずだ。

「まずは第1戦に集中して取り組めば、いい成果を得られると思っている。やるべきことに集中して取り組めば、おのずと結果はついてくると思う」

 まずは今夜、聖地で迎える“前半90分”。極めて重要な戦いを前に、アントラーズスピリットの神髄が告げた言葉を今一度胸に刻みたい。ACLでもルヴァンカップでも、2018年のアントラーズは頂点へ続く道のりの全てで、ホームゲームを先に戦い、そして敵地へと乗り込むこととなった。フットボールの醍醐味と奥深さ、そして恐ろしさが凝縮されたノックアウトマッチ・ルール――。それを味方につけた者だけが、ホームとアウェイで1試合ずつを戦う制度の妙を最大限に利用する力を備えた者だけが、トーナメントを駆け上がることができる。だからこそ、緻密なゲームプランと勝利への決意を携えて、ピッチに立たなければならない。

「カップ戦では、自分たちのアドバンテージをしっかりと活かさないといけない」

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 そう語ったのは、2試合連続で会心のスコアを刻んだ背番号18だった。ジーコTDをして「能力の高い選手」と言わしめた、その実力を解き放ち始めたセルジーニョが指摘したのは、トーナメントを突き進むうえで不可欠な要素だ。自分たちのアドバンテージ――。今夜は聖地で戦える。カシマスタジアムに駆け付ける背番号12とともに戦える。道を切り拓くために、総力戦で突き進む90分だ。

  さあ、3年ぶりの聖杯奪回へ向けた戦いがいよいよ始まる。アントラーズファミリー全員で、全身全霊で戦い抜こう。聖地で勝利の瞬間を、ともに。

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