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「周りにいい選手がたくさんいるので、コミュニケーションを取りながら自分がやるべきことに集中できています。それがいい結果につながっているんだと思います」

 元セレソンのアタッカー、アレシャンドレ パトと対峙したマカオの90分。そして「Jリーグで最も高さがあって、パワーがある2選手」と評した大型ストライカー、都倉とジェイとのエアバトルを繰り返した札幌の夜。センターバックの勲章であるクリーンシートを2枚重ねた後であっても、チョン スンヒョンは謙虚な言葉を連ねていた。「味方の手助けがあったおかげで、無失点で終えることができました」。穏やかな表情で勝利を振り返り、札幌ドームを後にした。

「Jリーグで一番の名門クラブだと思いますし、最高のチームに来られたことに感謝しています。チームの名を汚さないよう、優勝するために最善を尽くしたいと思います」

 内外に衝撃を与えた金崎の移籍と時を同じくして、鳥栖からの加入が発表されたのは7月24日だった。プロフットボーラーとして迎えた、4年目の夏。リオ五輪に続いてワールドカップのメンバーにも選出された栄誉、そしてロシアのピッチに立てなかった悔しさを胸に秘めた24歳が、新たな挑戦としてアントラーズでのプレーを決断したのだった。

 加入発表からわずか2日後、大阪遠征中のチームに合流。兄貴分のクォン スンテが「もともと静かな性格」という新戦力は、少し強張った面持ちでグラウンドへ向かった。そこへキャプテンが歩み寄る。ペアを組み、言葉を交わしながらウォーミングアップ。その表情を見れば、緊張がほぐれていく様子が手に取るように分かった。そしてその2日後、さっそくベンチ入りメンバーに名を連ねる。内田に導かれ、吹田のビジタースタンドを埋め尽くした背番号12に挨拶。“アントラーズのスンヒョン”が誕生した瞬間だった。

「DFとして無失点で終えることを意識していたので、実際に無失点で終わることができて嬉しいです。全ての選手が僕を助けようという意識でプレーしてくれて、いい試合ができたと思います」

 待望のデビューは8月5日。西の劇的な決勝弾で、聖地が沸騰した夜だった。スンヒョンは犬飼とコンビを組み、スンテのアクシデントで急遽先発した曽ケ端とともに守備陣を形成。ポストに救われる場面もあったとはいえ、清水の攻撃をシャットアウトしてみせた。そして後半アディショナルタイム、打点の高いヘディングでゴールを演出したのも背番号5だ。「赤いユニフォームが見えたので、そこに落とそうとしたんです」。攻守両面の活躍で「素晴らしいサポーターの前でデビューできて、勝つことができて嬉しいです」と、初戦で掴んだ勝利を喜んだ。隣で戦った犬飼も「対人が強いし、いい形でプレーできていたと思います」と、頼もしき新戦力を称えていた。

 「チームのために体を投げ出して守備をする、献身性を見てもらいたいと思っています」。その言葉を体現するように、スンヒョンは気迫に満ちたプレーでチームを支え続けている。リーグ戦では清水戦から8試合連続でフル出場。35番を背負うACLでも、天津権健との180分を無失点で終えた。百戦錬磨の曽ケ端をして「経験がある選手だから」と言わしめる24歳は、「ロングボールを単純に跳ね返すだけでなく、味方につなぐヘディングをしてくれますし、チームとして助かります。周りも見えているし、競り合いも強いですね」と、守護神の信頼を掴んでいる。デビューからまだ2ヶ月足らずという事実が信じられないほどに、スンヒョンはアントラーズに不可欠な存在となった。

 そして、守護神はもう一人。「いろいろなことを聞かれます。意欲を持っている選手なので、できるだけサポートをしていきたいですね」。スンテもまた、“弟”が見せる積極的な姿勢を明かし、期待をかけていた。「集中していない時は、日本人選手よりも叱ってしまうかもしれないですね」と冗談交じりに笑う背番号1。当のスンヒョンに話を向けると、呼応するように「後ろにスンテさんがいるので、集中できています。韓国でも最高のGKで、大先輩です。『失点したらぶっ飛ばす』と言われていますけどね」と、こちらも笑顔を見せている。金髪の好青年は巧みに操る日本語で「スンテさん、コワイから…」と、報道陣の笑いを誘っていた。

「最高のチームだと思っているし、最高のサポーターだと思っています。その後押しで力をもらって、もっともっと頑張れます」

 鹿のエンブレムを纏い、既に10試合を戦ったスンヒョン。チームにすっかり溶け込んだ今、改めてアントラーズでプレーする心境を聞いた。返ってきたのは、ともに戦う背番号12への思い。「昨季のACL、蔚山に所属していた時に対戦した試合の印象があったんです。素晴らしいサポーターです」。愛情と情熱を受け止め、アントラーズファミリーとともに突き進む。鹿嶋で紡ぐ物語を、栄光で彩るために――。

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「前回の試合はパトリック選手を抑えられず、悔しい負けになりました。今回は集中して抑えていく。そうすれば、勝機は増えると思います」

 今夜、聖地で対峙するのはリーグ首位の広島だ。忘れもしないアウェイでの惨敗、同点被弾はスンヒョンにとって心底悔しいものだった。パトリックとの空中戦、先に跳んでボールを弾き返したプレーがファウルを取られると、FKのマークを外されてヘディングで決められた。「結果的にファウルになったので…」と多くを語ろうとはしなかったが、その瞳に闘志が宿った。

「次の試合は必ず勝ちます」。札幌の夜を締めくくったのは、勝利への誓いだった。ミッドウィークの一戦、広島がメンバー変更を施してくる可能性もあるが、誰が相手でも決意が揺らぐことはない。勝負のシーズン終盤、プロフットボーラーとして初めてのタイトルへ――。難敵を迎え撃つ、聖地でのノックアウトマッチ。スンヒョンがアントラーズを守る。スンヒョンとともに、ベスト8の切符を掴み取る。
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