「試合が続く中で、全員が重要な存在になる。4つの大会を全員で戦っていかなければいけない。それはこのクラブの宿命だし、そういうクラブに在籍していることを再認識したうえで、試合へ向かう姿勢を自覚しなければいけない」
北の大地へと発つ前、指揮官は総力戦の意味を改めて語っていた。会場変更と台風直撃を乗り越え、マカオで掴み取ったアジア4強の座。そして帰国後、再びの飛行機移動で臨んだ札幌での90分――。遠藤の鮮やかなボレーで均衡を破ると、エースへの道をひた走る鈴木が今季10得点目をPKで沈めた。ピッチへ解き放たれたアタッカー3人も、任務遂行の瞬間を迎えるために献身。獲物のように広がるスペースを横目に、コーナーフラッグ際で体を張ったボールキープを見せた。まさにチーム一丸で、時計の針を進めていく。そして迎えた、待望の瞬間。2-0。殊勲の背番号25は「みんなで集中してプレーできていたし、それが一番よかった」と頷き、チームバスへ乗り込んだ。
「大きい大会を重ねることで経験を積んで、選手たちは自信をつけてきていると思います」
最後尾から戦況を捉え続け、抜群の安定感でアントラーズを支えているクォン スンテは、チームの成長を実感していることを明かした。川崎Fを撃破した味スタでの“後半90分”、そして鈴木の劇的な決勝弾で3ポイントへたどり着いた聖地での湘南戦を含め、これで公式戦4連勝。“勝ち切らなければならない試合”で、しっかりと勝ち切る――。4つのスタジアムで3つの大会を並行して戦い、そして4つの勝利を積み重ねた意味は極めて大きい。
「チームとしての一体感を出せた、いい試合だったと思う。次に活かしていくために、天皇杯に向けて気持ちを切り替えていきたい」
勝利を告げるホイッスルから数分後、札幌ドームの記者会見室。指揮官の視線は既に、3日後のホームゲームに向けられていた。4つ目の大会、天皇杯――。ベスト8の切符を掴み取るため、聖地での戦いへと照準を合わせていく。勝利の余韻に浸る時間などない。試合後のロッカールームから、次なる戦いへの準備は始まっているのだから。
「練習をできないことが一番難しい」と遠藤は言う。チームは月曜日の昼に鹿嶋へ帰還し、夕方からリカバリートレーニングに臨んだ。そして一夜明けた火曜日、それはすなわち試合前日だ。最優先事項であるコンディションの調整、そして対戦相手の分析と意思統一。それだけで準備期間が終わってしまうような、わずかな時間を最大限に活かして集中力を研ぎ澄ましていく。「試合の中で調整していかないといけない中で、臨機応変に声を掛け合って話し合いながらプレーできていると思う」。芽生えつつある自信を聖地で体現した先で、必ずや勝利を掴み取る――。
「自分たちが天皇杯に懸ける気持ち、どの大会でも優勝を目指すという姿勢は、相手がどのような出方をしてきても変えてはいけない」
曇り空の火曜日。最終調整を終え、指揮官はアントラーズとして戦うことの意味を改めて語った。そしてもう一つ、忘れてはならないこと。忘れるべくもないこと。「選手たちには『悔しさをぶつけよう』という話をした」。3月10日、聖地が沈黙に覆われた完封負け。そして今月1日、敵地で喫した逆転での惨敗。シーズンダブルという屈辱の事実が、リベンジへの闘志を胸の奥底から熱く強く掻き立てる。今度こそ、広島を打ち破らなければならない。意地と気迫をみなぎらせる、ノックアウトマッチだ。
さあ、ベスト8進出を懸けた戦いが始まる。今夜も全身全霊で戦い抜こう。アントラーズレッドの歓喜を、カシマの夜空に響かせるために。