「サポーターの皆さんも浦和に対して強い気持ちを持って臨んでいただろうし、決して僕たちだけの戦いではなかったです。これからも一緒に戦っていきたいです」
満員の聖地、勝利という任務の遂行。激しい攻防を繰り返した三竿健斗の視線は、カシマスタジアムを埋め尽くしたアントラーズレッドへと向いていた。72分、ペナルティーエリア手前で狙い済ましたボール奪取。そのままゴール前へ進出し、放ってみせた右足シュート。チャレンジは結実しなかった。だが次の瞬間、背番号20はゴール裏へ両手を振り上げた。「僕たちだけの戦いではなかった」。サポーターを、そしてアントラーズファミリー全員を鼓舞するかのように。みなぎらせた気迫を、全身で表現してみせた。
「自分としては、個人の出来は全然良くなかったですけど。以前だったらミスを重ねてどんどん悪くなっていったと思います。でもその中で、やれることをやろうと割り切ってプレーできた。メンタル的にも成長を示せた試合なのかなと思います」
虎視眈々と狙い続けた出場機会を掴んでみせたのは、昨年6月のこと。大岩監督の就任を合図に定位置を奪取し、もうすぐ1年になる。鹿のエンブレムを纏って迎えた2年目、21歳は新指揮官から揺るぎない信頼を託され、プレータイムを刻むごとに強く逞しく成長を遂げた。「試合を重ねるごとに課題がわかるし、自信を掴むことができています」。充実の表情とともに、着実に歩みを続けていったのだった。10月29日の札幌戦でプロ入り初得点を記録すると、1ヶ月後には代表初招集の知らせが届く。勝利を重ねるチームとともに、日々着々と進化の証を刻んでいた。
だが、しかし――。飛躍のシーズン、その締めくくりは底知れぬ悔しさとともに記憶されることとなってしまった。ヤマハスタジアム、0-0。「責任の大きさを感じながらピッチに立ったのに、優勝できなかった。本当に申し訳ないです」。その1年前、埼玉の夜に演じた魂の90分をスタンドから見届けた背番号20にとって、ピッチに立てない仲間たちの心中は痛いほどよくわかる。だからこそ、託された思いを果たせなかった不甲斐なさ、情けなさが込み上げて止まらなかった。
「絶対に糧にしなければいけないんです。チームを優勝させることができる選手にならないといけないんです」
それでも、フットボールと人生は続く。あの結末から2週間後、健斗はサムライブルーを纏って初めてピッチに立った。12月16日、韓国戦。2点ビハインドの状況でピッチに送り出され、必死にボールを追った30分弱は、若武者を大いに刺激する時間だった。タイトルを逃した悔しさ、磐田で流した涙、そして初めて刻んだ代表キャップ――。激動の12月を経て、健斗の2017年は幕を閉じた。
「試合中、いつまでも先輩の意見だけを聞いているだけではしょうがないので、自分の意見を言うようにしています。自分が言うことで、プレーで示さなければいけなくなるので。自分のハードルを上げるためにも、人に関係なく言うことは大事だと思っています」
決意を胸に、迎えた2018年。健斗は不動の存在として、アントラーズのミドルゾーンに君臨し続けている。半年前、「自分一人で考え過ぎず、若いなりに思いっきりプレーしたいです。そうすれば周りがサポートしてくれるので」と話していた背番号20は今、中心選手としての自覚を滲ませながら、激戦の日々を駆け抜けている。
より重い責務とともに進む日々は当然ながら、決して平坦な道のりではない。低空飛行を続けたチームにあって、健斗もまたもがき苦しんでいた。3月10日の広島戦、自陣ペナルティーエリア内で犯したパスミス。決勝点の原因を招いた張本人は敗戦後のピッチで、厳しい声の数々を浴びせられることとなる。ロッカールームから姿を現したのは、他の全選手がスタジアムを後にしてからしばらく経ってのこと。「近くしか見えていなくて、パスを通して前に運べばチャンスになると思っていたので…」。目を背けることなく、己と向き合った。
「サッカーはメンタルのスポーツで、自分をいかに最高の状態に持っていくかだと思います。いろいろな経験をして学んでいきます。今日のことを絶対に次につなげないといけないです」
悔恨の念もまた、進化に向けた燃料となる。「以前だったらミスを重ねてどんどん悪くなっていったと思います。でもその中で、やれることをやろうと割り切ってプレーできました」。広島戦でのミスから2ヶ月後、満員の聖地で示した姿勢もまた、健斗が刻んだ成長の証だ。「悪いなりにも」という言葉を連ねていることからもわかるように、ここ数試合のパフォーマンスは決して満足のいくものではないだろう。だからこそ、5月に入って勝利を2つ重ねた事実は大きな意味を持つ。「結果が出れば自信になる。結果にこだわっていきたい」。そう言って健斗は、次なる戦いを見据えていた。
「ホームなので、しっかりと勝って第2戦に向かいたい」。上海上港と対峙する“前半90分”を前に、健斗はシンプルな言葉に決意を込めた。アントラーズの歴史に新たな章を書き加えるために、是が非でも乗り越えなければならない大一番。「名前を見れば、すごい選手もいます。でも自分も世界を目指している中で、そういう選手と今後も対戦していくことになるので。気にせずにやっていきたいです」。高みを目指し続ける22歳にとってもまた、真価を問われる戦いだ。
定位置奪取から歩んできたこの1年、刻み込んだ悔しさと決意、そして進化の証。聖地のピッチに全てを解き放った先に、新たな景色が待っているはずだ。「チームを勝たせることができる選手になる」。描き出した理想像へ、一歩でも二歩でも近づくために――。健斗は今夜も、勝利だけを目指して闘い続ける。