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「アントラーズの歴史にとって大事な試合になる。このメンバーで、歴史を変えたい」

 満員の聖地、魂のウノゼロ。まだ余韻の残るカシマスタジアムで、土居聖真は鋭い眼光とともに決意を刻んだ。「今日ももちろん、大事な試合だったけど…」。そう前置きしたうえで、見据えていたのは次なる大一番。鹿のエンブレムとともに歩み続けてきた背番号8は、ほとばしる闘志を隠そうとはしなかった。アントラーズの歴史に書き加えなければならない栄光の章、到達しなければならない景色。ファミリーの思いは一つだ。今年こそ、アジアの頂へ――。

 「もっとやれるチームだし、まだまだやらないといけない」。遠藤が険しい表情で振り返ったように、会心の内容とは言えなかった。5月5日、浦和戦。圧力をかけられ続けた後半45分は苦しく険しい道のりだった。試合運びに課題が残ったことは確かだ。だがそれでも、気迫をみなぎらせて掴み取った3ポイントには計り知れない価値がある。栄光の日々をともに過ごした情熱の指揮官と、初めて対峙した90分――。幾多もの感情が去来する中、アントラーズファミリー全員の力で勝利へとたどり着いたのだから。満員の聖地で、レジェンドの魔法を凌駕してみせたのだから。

 「オズワルドは非常に大きな存在で、恩人であり、尊敬している人物。今日という日があって、いろいろな感情を抱くことができたのは幸せなこと」。かつての背番号4は真っ直ぐな言葉で心中を明かした。恩師と向かい合った激闘で勝利を成し得た事実は、指揮官として新たな一歩を踏み出した証でもある。「連戦の中、目の前の試合に勝ち続けていきたい」。大岩監督はそう言って、来たるべき大一番へと視線を向けていた。

 ACLラウンド16、上海上港との激突――。アジア屈指の資金力を誇る中国の雄は世界に名だたる選手たちを迎え入れ、国内外で存在感を示し続けている。フッキ、オスカル、エウケソン――。王国が生んだ強烈なアタッカー陣がチームを牽引し、昨季はACLベスト4へ進出した。今季も国内リーグで首位に立ち、改めてその強さを誇示している。言うまでもなく、難敵であることは間違いない。「強いことは誰もがわかっている。でも、上に行くためには倒さないといけない相手」。昌子は敬意を表しつつ、勝利を、そして突破を誓っていた。

「全員の気持ちが入っていた。サポーターの声も大きくて、すごく良い雰囲気だった。サポーターの力がどれだけ自分たちの力になるのかを証明できた試合だったと思う。アントラーズにとって、本当に大事な試合。もう一度、スタジアムに来てほしい。平日で難しいかもしれないけど、カシマに集まってほしい」

“共闘”の二文字を胸に闘い続けるチームリーダーは土居と同じくして、浦和戦の直後に背番号12への思いを紡いでいた。昌子の言葉に、三竿健斗が呼応する。「これからも一緒に戦っていきたい」。そして、土居は言い切った。「ホームで戦える。1戦目から勝ちに行く」。「歴史を変える」ために、その一歩を踏み出すために、聖地で必ずや勝利を――。アントラーズファミリーの力を総結集させて挑む、大一番だ。

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「シーズン中にこういう時期が来ることもあると思うけど、サポーターが怒ることは理解できる。自分たちも“なんで勝てないのか”という思いを持っている。でも、互いが常に向き合っていかないといけない。サポーターがいるから、自分たちの存在がある」

 8試合でわずか1勝。4月の歩みはこの上なく不甲斐なく、そして苦しいものだった。屈辱にまみれた日々、負傷者続出という悪夢。だがそれでも、アントラーズは必死にもがき続けた。聖地でも敵地でも相手を凌駕する情熱を注ぐ背番号12もまた、ともに苦しみながら暗闇の出口を探し続けた。クラブハウスに掲げられた熱い思いの数々。内田は「一緒に闘おうという思いが込められているから、頑張れる。ともに乗り越えよう」と呼びかけた。ブーイングや怒号が響いた夜もある。勝利を渇望しているからこそ、沈黙に覆われた時もある。それでも必死に、アントラーズは歩みを続けてきた。

 そして迎えた5月、掴み取った2つの勝利。決して手放しで喜べる試合内容でなくとも、課題や反省が山積だとしても。ともに闘い、ともに歓喜を分かち合う瞬間に身を置き、アントラーズとフットボールがある喜びを改めて胸に刻み、そして思う。次も勝つ。ファミリー全員の力で、歴史を変えてやる。

 「サポーターがいるから、自分たちの存在がある」。共闘を誓う昌子は「チーム一丸となって戦っていきたい」と言葉を重ねた。勝利への決意を、渇望を、今夜も聖地で体現してみせる。「こえる」ための戦い、第1章――。アントラーズファミリーが総力戦で立ち向かう、前半90分が始まる。

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