「試合前のミーティングで、剛さんが『常に上を目指す』と言っていた。今の俺らの“上”はリーグ戦だと2位だし、他力だけど2連勝しないことには始まらない。“常に上へ上へ”とやっていきたい」
待望の復活から42日目。青空の敵地で、ビクトリーホワイトの背番号3が圧倒的な存在感を誇示してみせた。11月24日、中2日で臨んだアウェイゲーム。甲府とのノックアウトマッチを制し、深夜に鹿嶋へと帰還してから約60時間しか経っていなかった。立ち上がりから圧力を高めてきた仙台に対し、アントラーズは守勢を強いられることとなる。開始2分、いきなり打たれたミドルシュート――。その進路を完全に読み切っていたのが、昌子源だった。足を伸ばして跳ね返し、ホームチームの希望を霧散させる。その後も鋭い出足でインターセプトを繰り返し、ピンチの芽を摘み続けた。
「久々の14時キックオフだったし、重くなったり、硬くなったりすることはわかっていた」。だから、動揺などあるわけもなかった。予測していた展開通りに時計の針が進み、スコアレスのまま30分が経過。歩を刻むたびに力強さと軽快さを取り戻していった選手たちは、じわじわとホームチームを押し込み始めた。我慢の試合運びから、虎視眈々と好機を窺う――。巧者の鎧を纏ったまま、敵地での戦いは続いた。そして、34分。ついに待望の瞬間が訪れた。
セットプレーから生じた、ゴール前での混戦状態。いち早くボールの落下点を確保したのが昌子だった。「ワンフェイントを入れたのは、一発目(のタイミングで)は何人かが飛び込んでくると思っていたから。大伍くんが落とした時点で、キックフェイントを入れることは決めていた」。密集の中、刹那の煌めきが進路を照らす。次の瞬間に右足から放たれた一撃は、針の穴を通すかの如く進み、ネットを揺らした。「体勢が悪くて見えていなかったけど、喜びに来てくれたので、入ったことが分かった。“さすが元FW”と言われたけど、レクリエーションゲームの通りでしたね」。値千金の先制弾が、アントラーズを力強く前進させた。「前半を1-0で終えたことが大きかった。それから攻守の切り替えも速くなったしね」。今季初めてスコアを刻み、クリーンシートで90分を終える――。任務遂行の証を携え、チームリーダーは穏やかな笑顔を見せていた。
「見ての通り、自分のところからも失点をしているし、迷惑をかけてしまった。反省点は多い。それでも、こうして試合を重ねるごとにフィーリングを合わせていけるのは大事なことだと思う」
仙台戦から遡ること、ちょうど1ヶ月。極寒の敵地で3失点を喫し、それでも底力を見せ付けてファイナルの切符を掴み取ったACL準決勝は、10月24日の夜だった。水原三星との対峙に身を置き、イメージと現実の乖離から何度も突破を許し、「前に出て、奪い切る守備ができなかった」と悔しさを滲ませていた姿は今や、遠い昔のことのようだ。「フィーリングは徐々に合ってきている。状態を100%に持っていかないと。そのためにできることをやっていきたい」。そう言って帰国の途についてから、背番号3は己の体と向き合い、日々着々と戦闘態勢を整えていった。10月31日のC大阪戦、1-0。ペルセポリスFC戦、2-0。テヘランの死闘、0-0。「本当に難しい」と覚悟していた公式戦再開初戦も、甲府をウノゼロで退けた。そして、仙台戦も――。
水原で悔しさと向き合った後、昌子はピッチに立った5試合でクリーンシートを5枚重ねた。「誰かがミスをしても、誰かがカバーすればいい。それが今はできていると思う」というように、全員の力で堅守を築いていることは言うまでもない。しかし、ピッチに君臨する背番号3の背中が、試合を追うごとに大きく頼もしく映ることもまた、疑いようのない事実だ。「1対1の局面で、“ここだ”というタイミングで足が伸びたと思う」と手応えを掴んだ甲府戦では、鋭いボール奪取を遂げた直後に相手が負傷するアクシデントもあった。主審から「『完璧なタックル』と言われた」という好守だったが、敵地で大きなブーイングを浴びることとなる。不運としか形容し得ないプレーだが、昌子は急いで担架を呼び、そしてスタンドへ頭を下げた。負傷、敗戦、屈辱――。数々の痛みに直面し、そして乗り越えてきたからこそ。今年だけでも、「W杯やケガなど、いろいろな経験をさせてもらった」と、起伏の激しい道のりを突き進んできたからこそ。一回りも二回りも強く逞しく進化を遂げ、昌子はシーズンのクライマックスへと向かう。
「鳥栖は全員がハードワークをするチーム。ホームでもアウェイでも同じテンションで入ってくるし、いつも苦しめられている。相手にとっても勝たないといけない状況だろうしね」
ユアスタのミックスゾーンで笑顔を見せたチームリーダーの視線には、次なる90分が映し出されていた。「紅白戦ではやったことがあるけど、公式戦とは違うから」。思い描くは聖地でのマッチアップ、その相手は鳥栖の背番号44――。「夢生くんの性格を考えたら、絶対に気合いは入っているでしょ」。戦友との再会と対峙を心待ちにしながら、昌子は闘志を燃やしていた。「“アジアを獲った”という目で見られることはわかっている。そんな中で、あれから初めて帰るわけだからね」。称号ゆえの難しさがあることも明かしつつ、「『停滞は後退だ。常に前進して、上を向け』と剛さんも言っていたから」と、聖地での勝利を誓っていた。
「必ず頂点に立ちたいという気持ちを、全員が持っている」。不退転の決意を刻み、ついに上り詰めたアジアの頂。最高の景色へと足を踏み入れ、栄光の証を闘将と守護神に手渡した姿は、ともに戦う全ての者を熱く震わせるものだった。「最初は絶対に満男さんでしょ。やっぱり一番似合います」。そう言って笑った昌子は今、伝統を真に継承したリーダーとして、カシマスタジアムへと帰還する。鹿嶋で迎えた8度目の冬、今季のリーグ最終節。「これからもずっと、総力戦。アントラーズはファミリーだからね」。背番号3は今日も、“共闘”を胸にピッチに立つ。