PREVIEW

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「相手の勢いをうまくかいくぐることができた。1点目がいい時間に入って、守備でも危ない場面を作らせなかった。後半は相手が前掛かりになってきたところで、2点目、3点目を取れた」

 1週間前、アントラーズが杜の都で見せた姿は、巧者の風格を纏ったそれに他ならなかった。11月24日の第33節、結果は3-0。甲府とのノックアウトマッチからわずか中2日で臨んだ一戦、序盤は押し込まれる時間が続いた。ホームの大声援とともに圧力を高めた仙台を前に守勢を強いられたが、シーズン55試合目の選手たちに動揺の色はない。着実に時計の針を進め、34分にセットプレーから先制。そして後半、前傾する相手の背後を突いて、2つのスコアを重ねてみせた。ビジタースタンドを埋め尽くし、情熱を注ぎ続けたアントラーズレッドが歓喜に包まれる。故郷のピッチで腕章を巻いた遠藤は「みんなで勝った試合だと思う」と頷いていた。我慢の時間をしっかりと耐え、好機を逃さずにゴールを陥れた90分はまさに、会心の勝利と言えるものだった。

「ACLで優勝したからといって、慢心してはいけません。“タイトルを獲った時と同じ姿勢でやろう”とずっと話してきています。今日も自分たちらしく、やるべきことをしっかりやれた結果だと思います」

 ミスを逃さずにボレーを突き刺し、敵地での勝利を力強く手繰り寄せたセルジーニョ。誠実なプロフェッショナルはこの日も、自らの輝きを誇るのではなく、チーム全員への信頼を強調していた。8月19日のデビューから約3か月で、早くも得点数を10に到達させた背番号18は穏やかな笑顔で言葉を紡ぎ、そして仙台の地を後にした。

 アウェイ2連戦、2連勝――。インターバル明けの難しい戦いを乗り越えたチームは2日間のオフを経て、練習を再開した。実戦復帰を遂げたレアンドロや内田、トレーニングに合流した中村の存在も選手たちに大いなる刺激を与え、切磋琢磨はさらなる高みへと導かれる。ベンチ入りメンバー枠をめぐる争いは熱を帯び、しかしチームを包む一体感は日を追うごとに強固なものとなっていった。

「優勝したことの嬉しさや自信もそうだが、いかに一体感を持つことができるか。“全員が必要なんだ”ということを、身をもって感じてくれたことが、今後において大事だと思う」

 「アジア制覇が持つ意味」を問われた指揮官が語ったのは、「総力戦」の意味を真に体現し、勝利とともに突き進む道のりの価値だった。遡ること1か月、10月31日のC大阪戦。若武者たちが奮戦し、アントラーズレッドの誇りを守り抜いて気迫のウノゼロを演じてみせた。その1週間後、先発全員変更で乗り込んだ日立台でも気迫をみなぎらせ、3-2と逆転勝利。そんな面々の輝きに触発されるかのように、イラン王者とのファイナルに臨んだメンバーは、魂の180分を経て最高の景色へと上り詰めた。負傷やコンディションの問題でピッチに立てない選手たちもまた、仲間を鼓舞し、ともに歩みを進めてきた。そして気付けば、戦い抜いた試合数は55に達していた。

「今までと同じように、“この目の前の試合に必ず勝つ”ということ。ホーム最終戦であり、そういう姿をサポーターの皆さんに見せる義務と使命が我々にはある。そういう部分をもう一度強調して、選手たちに伝えた」

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 息つく間もなく迫ってくる連戦の日々を全員で突き進み、悲願のタイトルを歴史に刻み、そしてシーズンカレンダーは最終盤を迎える。師走最初の戦いは、リーグ戦最後の90分。勝利を誓う指揮官に呼応するように、鈴木も「必ず勝ちたい」と闘志を燃やしていた。そして、こう付け加えた。「恩を返す意味でもね」。今や不動のエースへと進化を遂げた背番号9、その視線の先に映るのは――。

 アントラーズレッドの33、そして10を背負った金崎は今夏、新たな道のりへと踏み出す決断をした。あれから約4か月半、ついに再会の時を迎える。ともに苦しみを乗り越えた日々、ともに分かち合った歓喜の記憶が色褪せることはない。エースとしてチームを牽引し続けた姿、大一番で必ずネットを揺らしてくれた勝負強さを誰よりも知っているのは、アントラーズファミリーだ。だからこそ、戦友がどれほどの気迫とともにカシマのピッチに立つかを痛いほど理解しているからこそ、勝利への闘志が湧き上がってくる。思いは一つだ。「必ず勝ちたい」。

 「大事なのは、結果を出すこと。そこに集中しています」。鹿のエンブレムを纏う矜持を静かに語ったのは、心優しきファイターだった。金崎との別れと時を同じくして、アントラーズファミリーの一員となったチョン スンヒョン。瞬く間にチームへ溶け込み、気迫に満ちたバトルを繰り返す姿を思えば、さらに闘志が湧き上がってくる。「必ず勝ちたい」。スンヒョンとともに。

 出会いと別れ。幾多もの思いが去来するフットボールの世界で、アントラーズファミリーはどんな時でも勝利を目指して戦い続けてきた。戦友との再会、順位争い、ACL出場権――。リーグ戦最後の90分、様々な要素が脳裏によぎる戦いでも、勝利への決意が揺らぐことはない。今日も聖地で、ともに。全身全霊で戦い抜こう。勝利のために、総力戦で突き進もう。
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