PREVIEW

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「しっかりと堅く入って、90分で勝ち切りたいというイメージだった。0-2は、普通だったら負け試合。だから、相手のミスだと思うよ」

 後半アディショナルタイム、劇的な決勝ゴール。聖地を沸騰させた内田は、あの熱狂と鮮やかなコントラストを描くように、静かに90分を振り返っていた。大逆転という興奮はしかし、先手を取られていなければ起こり得なかった結末でもある。「点は取れたけど、個人としてもミスがあったしね。DFだから、2失点の方がね…」。背番号2が強調したのは、開始早々に2つのスコアを失った事実だった。「次につながっただけだよ」。チームリーダーは表情を引き締める。遠藤もまた「勝てたけど、最初の2失点がなければもっといい試合ができたと思う。切り替えないと」と言葉を重ねていた。熱気と余韻とともに殺到した報道陣の前で、腕章をつないだチームリーダー2人が紡いだのは反省の弁だった。

「流れや運、チャンスが来た時に掴んで離さない。勝ち癖はついてきたかな」

 それでも、反省を重ねた中でも、内田は前向きのベクトルを放っていた。ホームでの勝利が突破への絶対条件とも言えるアジアでのノックアウトマッチで、アントラーズファミリー全員の力で逆転へと到達した価値は極めて重い。息つく間もなく試合が続くカレンダーに身を置き、勝利とともに突き進む――。思いは一つ、総力戦の日々に終わりはない。

「週末のリーグ戦に向けて、気持ちを切り替えて臨みたい」

 記者会見の第一声で、指揮官の視線は次なる戦いへと向いていた。立ち止まる時間などない。翌朝のクラブハウスで、次なる戦いへの準備が始まった。再び迎える、聖地での大一番へ――。3日間の準備期間で、チーム一丸で集中力を研ぎ澄ましていく。リカバリーのメニューで心身の状態を整え、入念なミーティングで改めて意思を統一した。青空に恵まれた試合前日にはセットプレー練習を実施。激しい競り合いの応酬となり、緊張感と勝利への決意がグラウンドを包んでいった。

「いい守備から、いい攻撃へつなげなければいけない。しっかりと試合に入ろう。選手たちにはそう伝えた」

 前日練習を終え、大岩監督が刻んだ決意は明快だった。水原三星戦での反省を踏まえ、ホイッスルと同時に最大限の集中力を張り詰め続けること。意地と気迫をみなぎらせて闘い続け、「いい守備から、いい攻撃」を仕掛けていくこと。メンバーを入れ替えながら突き進む日々、誰がピッチに立っても変わることのない、変わってはならない姿勢を貫く。チームのために、勝利のために――。

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「サポーターの後押しもあったからね。バスでスタジアムに入る時にも見えて、感じるものがあった」

 大逆転劇を演じた後、背番号12への思いを紡いだのは内田だった。加入から2ヶ月、不動の地位を築き上げたセルジーニョも「ホームでの自分たちのパワーはわかっていたので、平常心でプレーすればいいと思っていた」と、聖地で戦う意味を揺るぎない自信とともに述べていた。あれから4日。今日もカシマで戦える。ビジターチームを凌駕する、アントラーズレッドの情熱とともに戦える。

 さあ、アントラーズファミリーの底力を示す大一番が始まる。リーグ首位に立つ川崎Fとの対峙は今季4回目。過去3戦、結果は1勝1分1敗だった。1ヶ月前、聖地での90分は1-1のドロー。ならば、今日。掴むべきものは一つしかない。全員で突き進もう。全身全霊で戦い抜き、鹿嶋の秋空に歓喜と誇りを響かせよう。
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