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「自分云々というより、チームとして3点目を取ることができれば楽になることはわかっていました。偶然、自分のところにボールが来て、落ち着いて決めることができました」

 安部が煌めきを解き放ち、刹那の判断でダブルタッチを繰り出した瞬間。無力と化した水色と黒の壁をすり抜けたのは、背番号18だった。ラインコントロールの乱れを見逃さず、絶妙なタイミングでDF陣を置き去りにする。視界に捉えたゴールへの道筋、迷うことなく振り抜いた左足――。描き出した経路は、GKの股下だった。ネットが揺れる。アントラーズレッドが沸騰する。72分、セルジーニョ。ベスト4進出を決定付ける、値千金のファインゴールだった。

「自信は深まっていますけど、個人だけでそうなっても無意味なんです。勝つことで、チームとしての自信が深まっていく。それが大切です。次のラウンドへ進むという目標があったので、得点という形で貢献できて非常に嬉しく思っています」

 激闘の余韻が残る、味の素スタジアムのミックスゾーン。チームメートより少し遅れてロッカールームを後にしたスコアラーを、数多くの報道陣が取り囲む。先発した試合では3戦連発と大車輪の活躍を見せている新戦力。天津権健、広島、そして川崎Fと、スコアを刻んでみせた相手や舞台を思えば、勝負強さはまさに“助っ人”そのものだ。次々と飛ぶ質問に、セルジーニョは真摯に答え続けた。「周りに合わせることを考えていますけど、それだけでなく、味方も自分の特長を把握してくれて気を利かせてくれています。だからフィットできているのだと思います」。穏やかな笑顔とともに紡がれる言葉は、どんな時でも誠実だ。「ナイスゴール!」と声をかけると、「アリガトウゴザイマス」と白い歯がこぼれた。

「中東のクラブからオファーはありましたが、ジーコから興味を持たれたと聞いて即決しました。あれだけの方が自分を探してくれたことは非常に光栄なことですし、それに応えたいと思いましたから。レアンドロとも一緒にプレーしたことがあって、アントラーズの情報はあふれるくらい、知っています。最多タイトルホルダーで、ビッグクラブであると。その歴史に貢献できればと思っています」

 セルジオ アントニオ ソレール デ オリヴェイラ ジュニオール、23歳。ブラジルの名門、サンパウロFCやサントスFCで過酷な競争を乗り越え、プロフットボーラーとしての歩みを始めたのは2014年のこと。レンタル移籍での武者修行を繰り返し、今年に入って加入したアメリカFCでは10番を背負った。王国で荒波に揉まれながら、レフティーは存在価値を高め続けていく。そんな姿に、アントラーズスピリットの神髄が熱視線を送っていた。「ブラジルのアイドルで、あれだけの実績を残している方に評価されたという時点で、迷うことは全くなかったんです」。キャリア初の海外移籍、その行き先は地球の裏側――。フットボールの神様に導かれ、セルジーニョは日本でのプレーを決断した。

「能力の高い選手なので、技術面でのレベルアップが期待できる。能力は持っているので、あとは本人が日本の文化や食事、生活にアダプトできればいい。非常に強い意欲で来ているはずだ。いい成績を残すことを願っているよ」

 8月4日。就任会見に臨んだジーコTDが期待を語ったのは、新戦力が成田空港へ降り立つ数時間前のことだった。神様の言葉に呼応するように、セルジーニョは長旅の疲れを見せずに言った。「チームで結果を出したいという一心でいますよ」。決意を示すかのように、翌朝のクラブハウスではさっそく汗を流す姿があった。一日でも早く臨戦態勢に入るべく、これから毎日を過ごすグラウンドを、一歩ずつ――。トレーニングを終えると、満面の笑顔でファンサービスに応じた。オフィスではスタッフに挨拶をして回る。「セルジーニョ!」と名乗りながら、握手を交わした。「練習で100%を、そして試合では120%以上を出さないといけません。そうして、チームの勝利に貢献する。それが基本です」。フットボールと真摯に向き合う姿勢を、アントラーズに合流した初日から貫いていたのだった。

 「セルジ、うまいよ」。果たして始まった鹿嶋での日々、まずはコンディション向上に注力したセルジーニョ。万全の状態でなくとも、能力の片鱗は新たな仲間たちの目に留まっていた。トレーニングを重ねるにつれ、着々と呼吸が合っていく。「周りに合わせてくれる。最近加入するブラジル人選手は真面目だね。ラテン系のノリがないのかな」。冗談交じりに、しかし芽生えつつある信頼を明かしていたのは遠藤だった。そして8月19日、横浜FM戦で初先発初出場。28日の天津権健戦では、ワールドクラスの弾丸ミドルを突き刺した。「自分の特長で、得意な形でもあります。チームメートや自分が真摯に取り組み続けたことが、大事な試合でのゴールにつながったと思います」。

「どの選手も期待されたほうがいい成績を残せるものですし、自信を持って、期待に応えられると思っています」

 真摯にフットボールと向き合い続けているからこそ、心優しき23歳の言葉には自信が滲んでいる。既に見せ付けたゴラッソの数々で、アントラーズファミリーの信頼をガッチリと掴んだことは間違いない。「時間とともに連係は深まってくるものです。もちろん、これで完成ではありません」。デビュー戦の夜から、もうすぐ1ヶ月。さらなる本領発揮はこれからだ。

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 「ここに来ることができて本当に嬉しく思っていますけど、サポーターの皆さんにこの嬉しさ、楽しさを倍にして返したいんです」。背番号18はそう言って、いつもの笑顔を見せていた。秋の深まりとともに突入する勝負のシーズン終盤戦を、ジーコに導かれた鹿嶋での日々を、栄光の記憶で彩るために――。セルジーニョ、23歳。鮮烈なる序章を経て、どんな景色を見せてくれるだろう。どんな景色をともに見ることができるだろう。アントラーズと紡ぐ物語は、まだ始まったばかりだ。
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