PREVIEW

photo

 「全員がしっかりと走って戦った結果だと思う。今日のような姿勢を全員が見せていかないといけない」。波状攻撃に立ちはだかり、体を張り続けた背番号28――。町田は走り抜いた90分を振り返り、新たな決意を滲ませていた。「戦う姿勢を見せることが大事だと思っていた。自分が戦っている姿は見せられたと思う」。攻守に献身を示し続け、冷静沈着なラストパスでスコアを演出した背番号30――。才能を解き放った安部もまた、自らの走路を手応えとともに描き出していた。

 若武者2人が胸を張った、敵地での90分。気迫をみなぎらせたアントラーズが、意地と矜持を示してみせた。3-1、2試合合計4-2。川崎Fを撃破し、ルヴァンカップ準決勝進出を遂げたのだった。ホームチームを凌駕する情熱を注ぎ続けたビジタースタンドが誇りを歌い上げ、調布の夜空を熱く焦がしていく。「無失点で抑えて、チャンスで仕留めれば準決勝へ行ける」という展望を前半の2得点で現実のものとしてみせた仕事人・山本も、任務遂行の意味を噛み締めるように頷いていた。

「非常に我慢強く守備をして効果的な攻撃を仕掛けることができた。いい守備から、いい攻撃へ。そういう典型的な試合になった」

 指揮官もそう言って、勝利への決意を体現してみせた選手たちを称えていた。アウェイゴール・ルールの下、1つのスコアが両者の立場を一変させるノックアウトマッチは「特殊性」を備えた90分であり、だからこそ難しい戦いだ。第1戦から中3日、準備期間の大半はコンディション調整に充てるしかない。「トレーニングがままならない中で、リカバリーをしながら頭をしっかりと切り替えて」味スタのピッチに立ち、そして唯一絶対の任務を遂行してみせた。「このようなポジティブな結果を全員で求めていたので、達成できてよかった」。セルジーニョが穏やかに語る。各々がその表情に自信を宿しながら、スタジアムを後にした。

 「次の試合に向けて準備をしよう」。激闘後の熱気が立ちのぼるロッカールームで、大岩監督は選手たちに語りかけていた。息つく間もない連戦、4つの大会を並行して戦う日々はこれからも続く。選手たちの視線も次へと向いていた。永木は「アントラーズのベースは気持ちの入った試合をすること。この試合だけでなく、ずっとやらないといけない」と気を引き締めている。つかの間の充電期間を経て、火曜日にトレーニングを再開するチームが見据えるのは、金曜日のホームゲームだ。

 秋の訪れを感じさせる、穏やかな天候に恵まれたクラブハウス。火曜日から3日間、チーム一丸での準備が進んでいった。曜日感覚を失うほどの不規則日程、険しき道のりの連戦は今や日常と化している。三竿健斗とチョン スンヒョンも代表での活動を終え、鹿嶋へと帰還した。時間を追うごとに、集中力を研ぎ澄ましていく選手たち。全ては、勝利のために――。「『いい試合の後だからこそ、大事なんだ』という話もしたし、選手たちは高い意識を持っていてくれていると思う」。着実に歩みを進めているカップ戦とは対照的に、混沌の中位へ沈んでいるリーグでも奮起しなければならない。緊張感が張り詰めた試合前日の紅白戦を見届け、指揮官は決意を語っていた。

photo

 さあ、9月唯一のJ1ホームゲームが始まる。4月7日、桜が咲き誇る平塚の夜、ラストプレーで奈落の底へ突き落された屈辱は忘れもしない。リベンジを果たし、連勝街道を突き進む――。思いは一つだ。今夜も全身全霊で戦い抜こう。アントラーズレッドの歓喜を、カシマの夜空に響かせるために。

pagetop