「いや、勝たなきゃダメでしょ」
「負けなかったことは良かった?」という問いを、内田は間髪入れずに遮った。中2日での3試合目、アウェイで続いた熱帯夜の消耗戦。大阪で掴んだ4ポイントという結果を、いかなる形で捉えるか――。内田の解は明快だった。「負けなかったことを良しとしてはいけない」。背番号2は悔しさを滲ませ、吹田のミックスゾーンを後にした。
「アウェイで終盤に押し込まれるのはよくあることで、それを跳ね返して勝たないといけないし、勝ってきたのがアントラーズ。ああいう点は入ってしまう時は入ってしまうけど、俺らは勝たないと。アウェイでも3ポイントを持って帰らないといけない」
残り16試合、15ポイント差。前回のホームゲームは9日前、聖地が祝祭空間と化した圧巻のゴールラッシュだった。あの夜を迎える前、首位との差は21。それから270分を経て、距離は確かに縮まっている。だが、道のりはまだまだ長い。青黒との対峙、息が詰まるような90分で「ドローは御の字」と言える状況を作れなかったのは、前半戦で低空飛行を続けた自分たちの不甲斐なさ。大岩監督は「当然ながら、勝ち切るという気持ちを持っていた」と険しい表情で語っていた。戦い終えた18試合は戻ってこない。残り16試合、目前の戦いを制し続けることに集中し、そして突き進んでいかなければならない。
「周りのことは気にせず、相手のことは関係なく、勝ち点を積み重ねていかないといけない」
8月に組まれたリーグ戦は6試合。アウェイ2連戦以外、戦いの舞台はカシマスタジアムだ。そして9月1日、真夏の過密日程を総力戦で突き進んだ先に、首位との対峙が待ち受けている。広島とのアウェイゲームを、どんな立ち位置で迎えることができるか――。問われるのは己の真価だ。一歩ずつ、全員で進んでいくしかない。
「静岡キャンプで取り組んできたことを、選手たちがピッチの上で表現してくれている。メンバーの平均年齢が下がっている中で、継続することが非常に大事。今、できていることの割合を増やし、確率を高めていくこと。そう言い続けている」
植田が欧州挑戦を決断し、ペドロ ジュニオールと金崎も鹿嶋を離れた7月。ピッチへの帰還を遂げた昌子も、気迫のシュートブロックとともに負傷離脱を強いられることとなってしまった。目まぐるしく感情が揺さぶられる日々に直面することとなったが、それでもフットボールは続いていく。そして今、才能に満ちた若武者たちが輝きを放ち、時にもがき苦しみながらもチームを上昇させようと腐心している。吹田の夜、初めてスコアを刻んだ町田は「新加入の選手もいる。切磋琢磨しながらやっていく」と改めて決意を語っていた。果敢かつ冷静沈着なプレーを続ける安部は「個人の力でチームを助けたかった」と、胸に宿る自信と自覚を言葉に刻んでいた。次代ではなく、今を担う――。自覚と責任を纏った若武者たちの躍動が、アントラーズを高みへ導くことは間違いない。新たに加わった韓国代表の実力者チョン スンヒョン、王国が生んだ司令塔セルジーニョの存在もまた、競争意識を強く激しく刺激し、チームを加速させるはずだ。
さあ、8月最初の90分が始まる。2位につける青赤との差は8ポイント。極めて重要な聖地での戦いで、力強く前進を遂げるために。アントラーズファミリー全員で、ともに戦おう。勝利を掴み、カシマスタジアムを歓喜で包もう。