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「次はアントラーズの歴史にとって大事な試合になります。このクラブの歴史を、スタッフ、チームメートと塗り替えたいと思います」

 満員の聖地で浦和を破った直後から、その視線は一点に向いていた。上海に渡った後も、決意を重ねて刻んでいた。そして臨んだ、大一番。胸の奥底から湧き上がって止まらない渇望を、値千金のスコアに変えてみせた。上海上港戦、42分。安西から託されたパスに飛び込み、左足ヒールで流し込む。瞬時の判断とアイデアの結晶が、真っ赤に染まったホームスタンドを沈黙させた。「アウェイゴールを取るという強い気持ちで臨めば、求める結果を得られる」。指揮官の思いを結実させた、会心の一撃だった。

 「シュートに至る前のプレーが素晴らしかったので。みんながすごく良い形でつないでくれたから、ゴールはそのおかげです」。土居聖真はそう言って、感謝とともに任務遂行を振り返った。高温多湿の上海、苦しく険しい“後半90分”。勝つことはできなかった。それでも、「求める結果」は確かに掴んでみせた。2試合合計4-3、準々決勝進出――。アントラーズは6回目の挑戦にして初めて、ACLの決勝トーナメント1回戦を突破した。

「下部組織からアントラーズに所属して、たくさんのタイトルを獲るところを見たり、経験したりしてきましたけど、唯一、このAFCチャンピオンズリーグを獲れていません。だから、獲りたいという気持ちが人一倍、強くあるんです」

 小学校卒業とともに山形から鹿嶋へ移り住み、鹿のエンブレムとともに歩みを続けてきた。トップチーム昇格まで6年、そこから出場機会を掴むまでに3年。背番号8を継承して、今年で4年目。プロの舞台を目指して邁進した日々も、憧れの先輩たちとの切磋琢磨で心が折れそうになった時も、そして自覚と責任を全身で背負ってからの道のりも――。アントラーズのスピリットを脈々と受け継いできたからこそ、このクラブが味わってきた悔しさの全てが心に刻まれている。だからこそ、懸ける思いは強かった。「得点という結果が出て良かったです」。懸けていたからこそ、その言葉に安堵が滲んでいた。

「先輩方から学ばせてもらったんです。自分が盛り上げ役になりたいし、ならないといけないです。自分もいつかはやっていかなければいけないんだとも思っていましたから。自分から発信していきたいです」

 アントラーズが味わってきた悔しさ――。1年前もそうだった。アウェイゴール数で広州恒大に屈し、聖地の夜空は沈黙と涙に覆われた。そして翌日、指揮官の交代が決定。新体制の初陣まで残された時間はわずかだった。屈辱にまみれながら再出発を期すチームを、土居は必死に浮上させようとしていた。憧れ続けた先輩の背中を追い、思いを受け継ぐ責任を刻み、努めて明るく振る舞っていたのだった。

 あれから、1年。土居を起伏の激しい道のりを乗り越え、歩みを続けてきた。「自分はどういう選手なのか」と、あるべき己の姿を見失った日々。「もっともっと自分らしくやろう」。助言と信頼を得て吹っ切れた後、待っていたのは最終節での首位陥落という結末だった。「“これがあったから”というサッカー人生にしないといけない」。そう絞り出した5日後、今度は日本代表初招集の報せが舞い込んだ。息つく間もなく上下動する、嵐のような日々。その全てに立ち向かい、土居は強く逞しく進化を遂げてきた。そして迎えた、2018年。アントラーズを新たな景色へと導く、かけがえのないスコアを刻んでみせた。

「練習でもめちゃくちゃ調子が良くて、同じようなシュートも決めていたからイメージはあったんです」

 激闘の余韻が残る上海体育場で、土居はつかの間の笑顔を見せた。2016年末には世界の舞台で輝きを放った背番号8が、アジアのベスト8で満足するはずもない。だが、この第一関門を突破せずして、未来を描くことなどできなかった。突破の喜び、敵地で敗れた悔しさ、そしてさらなる高みへと突き進む決意――。幾多もの感情が矛盾なく並立し、胸に刻まれる。そしてその全てが、進化への燃料になっていく。

 「モトさんが雰囲気作りをしているのを見て、学ばせてもらったんです」。1年前、土居は心優しきクリスタルの姿を思い描いていた。「うまい選手より勝てる選手になりたいです。もっとタイトルを獲らないと。たくさん獲っていけば、満男さんみたいになれるかな」。昨秋に自問自答の迷宮を脱した後、土居は未来の己を闘将に重ねていた。そして、2018年5月16日。Jリーグ開幕戦でジーコがハットトリックを決めたあの日から、ちょうど25年の夜――。「このクラブで育った者として、いかなる時でも外せない存在」。神様の魂を継承し、そして壁を打ち砕くスコアを刻んでみせた。

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 鹿嶋へ帰還した土居は、次なる戦いへ照準を合わせてトレーニングを再開した。視線の先には映るのは、聖地で勝利を掴む光景だ。5月20日、仙台との激突――。「どんな状況になっても、一人ひとりが意識を高く持ってやればいい。前向きにやるだけです」。12歳で鹿嶋へ渡った少年は試合翌日、26回目の誕生日を迎える。受け継ぐ思いとともに、土居とアントラーズの歩みは続いていく。
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