「『次の試合が大事』とロッカールームでみんなで言い合っていた」
激闘の爪痕、そして余韻が残る上海体育場。選手たちの視線はすでに、聖地での90分へ向けられていた。「ここから気を引き締めていかないと」と永木が言えば、鈴木は「次に向けて切り替えていかないと」と言葉を重ねる。そして植田は、ロッカールームの様子を明かした後、こう続けた。「次で負けたら意味がない」。不退転の決意を刻み、敵地を後にした。
2試合合計、4-3。上海上港と対峙した180分は、極めて過酷な道のりだった。5月9日、聖地での前半90分。刻んでみせた3つのスコア、そして失ったアウェイゴール。21本ものシュートを浴び、息の詰まるような時間が続いた。「まだ前半が終わっただけ。アウェイでは全く違う戦いになる」。選手たちは険しい表情で言葉を並べていた。
見据える先は、敵地での後半90分。1週間の準備期間は、いわば“ハーフタイム”だ。11日、青空の下で準備を再開したチームに、これ以上ない勇気と活力が注がれた。ジーコ、クラブハウスへ降臨――。アントラーズ・スピリットの神髄が、改めて鹿嶋の地に刻まれていく。その眼差しは、背番号12にも。「最後の笛が鳴るまで、ともに戦ってほしい。突破するために、そしてACLで優勝するために」。上海へ発つ者、日本から思いを注ぐ者。選手もスタッフも、そしてサポーターも。世界のどこにいても、思いは一つ――。総力戦で挑む大一番へ。ジーコの言葉が、アントラーズファミリーの闘志を燃えたぎらせた。胸を焦がし尽くすほどに、熱く、激しく。
果たして、任務は遂行された。Jリーグ開幕戦から25年後の夜、高温多湿の上海。開始早々に痛恨の失点を喫しても、アントラーズに動揺はなかった。腕章を託された遠藤が述懐する。「もっと大きな大会でも戦ってきた経験がある。だから、慌てることはなかった」。研ぎ澄ました刃でホームチームを脅かし、揺らしてみせたゴールネット。残り45分はさらに険しい道のりだった。繰り返されたラフプレー、不可解な判定から奪われたPK。時間を追うごとに勾配が急になっていく坂道を、総力戦で走り抜いてみせた。
「中断に入る前に、自分たちが優勝できるのだという思いと意識を持たなければならない」
3月末から突き進んできた連戦は、ついに最終章を迎える。不甲斐なき4月、意地と気迫をみなぎらせて再出発を遂げた5月。アジアでの激闘を経て、今改めてリーグテーブルに目を向けると、アントラーズの立ち位置は不甲斐なきものとしか表現し得ない。前だけを見て、一段ずつ這い上がっていくしかない。だからこそ、その思いをともにしているからこそ、ジーコは背中を押してくれた。「中断前、大事なホームゲーム。上位に近づくチャンスだ」。仙台との対峙、その90分が持つ意味は極めて重い。聖地で、必ず勝利を――。「今まで以上に多くのサポーターに足を運んでもらいたい」。ジーコはそう言って、変わらぬ愛情を背番号12へ向けていた。
さあ、中断前最後のリーグ戦が始まる。「もう負けられない。連勝を伸ばしていけるようにしないと」と昌子が決意を述べ、遠藤は「最後に上にいることが大事」と、一歩ずつ突き進むことを誓っていた。今月4回目のホームゲームで、4回目の歓喜を――。上海上港との激闘で掴んだ自信、突破を遂げた勢い、そして進化への決意を勝利への渇望に変えて、今日も。カシマスタジアムで、ともに戦おう。