「もっとできた部分があるし、そこは厳しくやっていきたい。勝った試合だからこそ、突き詰めていかないといけない」。遠藤は険しい表情を崩そうとはしなかった。「場面によっては良いプレーもあったけど、修正点は多々あると思う」。笑顔を見せることなく、安西は言葉を並べていた。長崎戦、2-1。5試合ぶりに掴み取った3ポイント、雨中のカシマに響き渡った勝者の歌声――。久々に果たした任務遂行、つかの間の充足感を噛み締めてから間もなくして、選手たちはさらなる向上と進化を期していた。
勝った試合、だからこそ――。フットボールに完璧などあり得ないだろう。どんな90分にも反省点がある。どんな90分を経ても、課題は抽出されていく。あまりにも無抵抗に刻まれたスコア、そして傾いた流れを引き戻せずに押し込まれ続けた後半。「取ったボールをすぐに失うプレーが多すぎた。もっと自分から発信していかなければいけなかった」。トップディヴィジョンの新参者と対峙した夜を経て、三竿健斗は反省の弁を連ねていた。それでも最後は、こう結んだ。
「今は勝つことが何よりの自信になる。内容もそうだけど、結果にこだわってやっていきたい」
全ては、勝利のために――。どんな時も揺らぐことのない姿勢を、ようやく結果で示すことができたこと。鹿のエンブレムを纏う責務を、ピッチで体現できたこと。その価値は非常に重い。暗闇に迷い込んでいた今だからこそ、3ポイントを携えたうえで課題と向き合える意味は極めて尊い。「勝つことがこんなに難しいのかと思った」。植田は心の内を明かしている。苦しみ抜いた日々、繰り返した試行錯誤。その全てが糧になるはずだ。糧にしなければならないはずだ。
「連勝していかないと意味がない。いい準備をしたい」。思いを吐露した背番号5は、前向きのベクトルを放ってみせた。健斗も「しっかりと勝って、上に行けるようにしたい」と決意を述べている。中2日、再び聖地で迎える90分へ――。選手たちの言葉は、勝利へ照準を合わせた準備が既に始まっていることを示していた。5月5日、浦和との激突。「次もホームで、いい雰囲気でできると思う。楽しみだね」。内田は期待に満ちた表情を見せていた。満員のカシマスタジアム、フットボーラー冥利に尽きる瞬間を思い描きながら。そして、もう一つ――。
「それにさ、オズワルドにも久しぶりに会える。楽しみだよね」
2011年12月17日。青空の丸亀で完封負けを喫し、涙とともに別れを告げたあの光景を思えば、こんな日が来るなんて考えてもいなかった。何度、魂を揺さぶられたことだろう。ホーム最終節後のスピーチで響き渡る熱い思い。アントラーズファミリーは幾度となく、情熱の魔法に魅了された。「内田は引退試合をするような選手になっているだろう」。2007年12月1日、大逆転優勝を成し遂げる数十分前に語られた、あの言葉――。歓喜で泣きじゃくっていたプロ2年目の若武者はのちに世界へと羽ばたき、幾多もの困難を乗り越えて鹿嶋へと帰還した。ルーキーだった遠藤は腕章を託されるまでになり、あの日の背番号4は今、指揮官として新たなる栄光の時を築くべく、歩みを進めている。過ぎ去った年月を思い返した時、対戦相手として情熱の指揮官と向かい合う光景を描き出した時、幾多もの感情が胸に去来する。そして思う。勝ちたい。何としても、勝ちたい――。
オズワルド・デ・オリヴェイラ・フィーリョ。慣れ親しんだカシマスタジアムで、慣れ親しんだ北側のベンチに立ち、しかし胸には赤菱のエンブレムを纏った指揮官と、初めて対峙する90分が始まる。美しき記憶の数々は、いつまでも色褪せることはない。リーグ3連覇、2度味わった元日の歓喜。そして東日本大震災後からの再出発、苦しみの末に掴んだナビスコ杯――。ともに分かち合った喜びが、アントラーズの歴史から消えることはない。そんなレジェンドと対峙する瞬間もまた、フットボールの一部だ。その魔法をアントラーズレッドの情熱で凌駕した先に、必ず歓喜の時が待っている。全ての思いを勝利への決意に変えて、満員の聖地でともに戦おう。アントラーズファミリーの総力を結集して、勝ち点3を掴み取ろう。