PREVIEW

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 トリコロールの歓喜に包まれた、横浜の夜。0-3。屈辱がスコアボードに刻まれ、選手たちはビジタースタンドへと向かった。アントラーズファミリーを覆う失意。平塚、味スタ、等々力、そして――。アウェイ4連敗という現実を突きつけられた背番号12は、沈黙、ブーイング、怒号、そしてチームコールと、幾多もの形で感情を発露した。ホーム側を凌駕する情熱を絶えず注ぎ続けたからこそ、ともに闘い抜いたからこそ――。表出する姿は違えど、思いは一つだ。勝ちたい。ただひたすら、目の前の試合に勝ちたい。

 「きっかけがあれば変わる。一つのゴール、一つの勝利で変わる」。苦しい胸の内を明かしたのは内田だった。25日の神戸戦を終えた後には、スタンドへ駆け寄って「一緒に乗り越えよう」と呼び掛けている。だからこそ、またも勝利を掴めなかった事実が苦しく、心の底から悔しい。「サポーターも我慢してくれていると思う」。共闘を続けるファミリーの思いとともに、“きっかけ”を掴めない現状を前に、背番号2は、それでも「下を向いちゃダメだよ」と続けた。試合はすぐにやってくる。歩みを止めることなど、決してあってはならない。

 鹿嶋へと戻った選手たちは、日曜日の午後からトレーニングを再開した。わずか1勝に終わった4月を経て、5月の幕開けは聖地での3連戦だ。クラブハウスにはなおも変わらず、チームの闘志に火をつけるメッセージの数々が掲げられた。ピッチへの帰還を遂げた遠藤や安西をはじめ、離脱を強いられていた面々は時間を追うごとに状態を高めている。熱を帯びるグラウンド。選手同士が意思をぶつけ合い、確認を繰り返しながら勝利への航海路を描いていく。全ては、勝利のために――。不甲斐なき日々、暗闇の出口を探し続ける時間に身を置いても、その姿勢だけは揺らぐことはない。それが鹿のエンブレムを纏う責務であり、それがアントラーズなのだから。

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「いろいろな思いがある。その気持ちを背負って戦いたい。結果が全ての世界。何を言っても、口だけになってしまう。交代メンバーも含めて、試合に出られるのは14人。その選手たちがアントラーズの代表として、サポーターやメンバー外の選手の分も含めて、プレーで示さないといけない」


 レッドカードとともに等々力を去ったあの日から、虎視眈々と次なる戦いへ照準を合わせてトレーニングに打ち込んできた昌子は言う。「選手同士でも話し合って、良い方向に向かっていると思う」と、安西は頷く。だからこそ、今夜こそ、聖地で勝利を――。J1初参戦、そしてカシマへ初めて乗り込んでくる長崎の勢いを、アントラーズレッドの決意と勝利への渇望で凌駕しなければならない。不甲斐なき4月を経て、気持ち新たに迎える5月。奮起と反撃の狼煙を、カシマスタジアムで。今夜も、ともに。
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