PREVIEW


 試合終了のホイッスル。残酷なまでに描き出されたコントラスト。一方の歓喜が沸騰すれば、他方は沈黙に、あるいは怒号に包まれる。それがフットボールの常だろう。だが、あの日は違った。

 伊東は言った。「大ブーイングを覚悟していた中、大きな声援を送ってくれた。自分たちの力になってくれるということだと思う。応えないといけない」。土居は決意を滲ませた。「サポーターの方もたくさん来てくれて、あのような試合をしたのに大きな声援をしてくれた。そういう方のために、ホームで気持ちを見せて勝たないといけない」。

 4月21日。失意の選手たちを出迎えたのは、大きな、本当に大きなチームコールだった。90分間、水色と黒を凌駕し続けたアントラーズレッドは、その結末に直面してもなお、幾多ものメッセージを掲げて情熱と愛情を注ぎ込んだ。心を揺さぶられない者などいなかった。伊東は言葉を続けている。「『あれが力になった』と言えるように、勝ち続けないといけない」と。

 早くもと言うべきか、ようやくと言うべきか。3月31日から5月20日まで続く怒涛の連戦は、等々力での90分を経て折り返し地点を迎えた。まとまった準備期間を確保できない中、望む結果を残せないまま、それでも次々と試合が目前に現れる日々。もがき苦しみながら、それでも前に進むしかない。内田は自身の経験と照らしながら「我慢、我慢だよ。ひたすら」と言う。周囲に、仲間たちに、そして自分に言い聞かせるように――。「勝てない時は、“結果が出ることを待っている”状態だから。“練習で変えていく”とよく言うけど、結果が出て変わっていくものだからね」。


 底知れぬ悔しさを胸に、選手たちはトレーニングを再開した。次なる戦いは中3日、聖地での90分。ミーティングを重ねながら、神戸との対峙へと照準を合わせていく。クラブハウスに掲げられた数々のメッセージが、選手たちの闘争心に火をつける。離脱を強いられていた面々の復活も、チームに新たな風を吹き込んでいた。「彼らは起爆剤というか、刺激を与えてくれる存在だと思う」と指揮官は頷く。「細心の注意を払わなければならないが、自信を持って送り出したいと思う」。フットボールに飢えた者たちの気迫と輝きもまた、勝利への道筋を照らしてくれるに違いない。

 ピッチで味わった悔しさ、仲間たちが苦しむ姿を見届けることしかできなかったもどかしさ、そして何より勝ちたいという思い――。全てをぶつけ、全てを解き放って、突き進んでいくしかない。カシマスタジアムで、再出発の90分が始まる。どんな時もアントラーズを見守り続けた聖地で、這い上がるための90分が幕を開ける。
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