PREVIEW


 己を「こえる」ことでしか、栄光の景色には到達できない。己を「こえる」ために、死に物狂いで戦い続けなければならない。今年もまた、激闘の日々が始まる。長く険しい道のりを、チーム一丸で突き進む1年が始まる。全タイトル制覇を誓い、勝利への渇望を胸に迎える新シーズンの幕開けだ。AFCチャンピオンズリーグ2018、グループステージ初戦。上海申花を聖地に迎え撃ち、アントラーズの2018年が始まる。

 「今年最初のミーティングで選手に伝えたのは…」と、指揮官は話を切り出した。シーズンインから初めて指揮を執る大岩監督は、2017年の記憶を改めてチームへ突き付けたのだった。

 「昨年の悔しさやいろいろな感情があって、それを今シーズンにぶつけていくことになる。継続して、最後の最後まで続けなければいけない。感情のぶつけ方や表わし方はそれぞれ違うが、チームメイトのため、そしてチームのためにその気持ちを持っていかなくてはいけない」

 5月30日、そして9月3日。聖地が暗幕に包まれた夜を忘れることなどできない。ACLとルヴァン杯敗退を意味する、笑顔なき2つの勝利。ホームでの挽回はしかし、次なるステージへの歩みをもたらすものではなかった。続く10月25日、神戸の夜に喫したPK戦での敗北。元日決勝への歩みは突如として、屈辱的な形で終幕を迎えることとなった。そして12月2日、ヤマハスタジアム――。「チーム全員で招いてしまったこと。悔しさしか残らない」。土居は自らに言い聞かせるように、静かに言葉を絞り出していた。3年ぶりの無冠。公式戦49試合を戦い抜いたその先で、アントラーズは新たな星を刻むことができなかった。

 1月9日。幾多もの思いを胸に刻み、復権への決意とともに、選手たちは再び走り始めた。15日からは宮崎キャンプを敢行。2週間に渡って身体を追い込み、シーズンを戦い抜く土台作りに打ち込んだ。そして指揮官は戦術練習を繰り返し、チームのグレードアップを図っている。「ビルドアップから攻撃する形は積極的に出していこうと思っている。昨季の良いところをなくすのではなく、それにプラスして『自分たちがしっかりとゲームを支配していく気持ちを持とう』という話をした」。とはいえ、進化は決して容易ではない。宮崎で臨んだ3試合、水戸戦での打ち合い、そして盛岡との120分。対外試合を重ねながら、試行錯誤を続けながら、しかし選手たちは一歩ずつ進んでいる。

 2017年、レギュラー奪取から代表デビューに至る飛躍を遂げた三竿健斗は「みんなが積極的にプレーしていたと思う。今季は後ろからしっかりとつなぐことを意識していて、盛岡戦でもトライできていた」と、プレシーズンの日々を振り返った。「『試合に出たい』という気持ちをみんなが持っているし、積極的にアグレッシブにやれていると思う」。21歳の若武者、その言葉に主力選手としての自覚が滲む。背番号20の躍動が象徴するように、高水準の切磋琢磨が個々の進化を促すことは明らかだ。アントラーズの誇りを献身という形で体現し続け、ついにサムライブルーを纏ってみせた山本は言う。「全てのポジションで練習から競争があって、チームの士気が高まっている。そのうえで、一人ひとりのチームのためにやらないといけない」。終わりなき定位置争いの日々は、チームがさらなる高みへ登り詰めるための道しるべでもあるのだ。

 さあ、いよいよ2018シーズンが始まる。その初陣は2月14日、カシマスタジアム。アントラーズの宿願である、アジア制覇への第一歩だ。前身であるアジアクラブ選手権とアジア・カップウィナーズカップを含め、過去11回のチャレンジは全て失敗に終わった。過去最高成績のベスト8を上回るために、そして頂点に立つために。是が非でも勝たなければならないオープニングマッチだ。


 昨季は蔚山現代FCとの開幕戦を含め、聖地でのグループステージは3戦全勝。着実にポイントを重ねたからこそ、ラウンド16への切符を掴むことができた。国際大会におけるホームゲームの重要性は計り知れない。だからこそ、万難を排して聖地へ足を運んでほしい。1人でも多くの背番号12と、歓喜の瞬間を分かち合いたい。

 勝利を積み重ねた先にある、まだ見ぬ景色へ到達するために――。クラブとサポーターが一つとなり、己を「こえる」シーズンが始まる。
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