「トレーニングでポゼッションやビルドアップに取り組んでいて、今日は良い形もありました。次につながると思います。選手間でももっとコミュニケーションを取って要求し合うことが必要なので、日々の練習から話し合っていきたいです」
2月7日のクラブハウス。盛岡との練習試合を終えた植田直通が、自身とチームの現在地を明かした。「縦パスの意識を持つことを指摘している」と指揮官が語るように、今季のアントラーズは得点力向上を目指し、低い位置から質の高い攻撃を組み立てる方針を打ち出している。最終ラインの一角を担う背番号5もまた、さらなる高みへ到達すべく、新たなチャレンジに向き合っている。
ボールポゼッション率を高めながら、より主体的に試合を動かし、ゴールを陥れる――。「ビルドアップ」と一言で表現すれば容易いが、進化の過程は苦しみを伴う。パスの強弱、タイミング、出し手と受け手のポジショニングやコース取りなど、熟成すべき要素は多岐に渡るのだ。とりわけ、ボールを足下に置く時間が最も長いとも言えるセンターバックに課されるタスクは多い。
「今までにやってきたことを、少しは出せたと思います。水戸戦ではボールが走らなかったですけど、今日はいろいろなパターンが出てきていましたし、プラスだと思います」と、植田は前向きに語った。向上心の塊である23歳にとって、新境地を切り開くために試行錯誤を繰り返す日々は刺激的なものに違いない。「まだまだミスもありますが」と課題に目を向けつつも、その表情は進化への決意に満ちていた。
「試合に出場する、しないに関わらず、どういう立場であっても自分がやるべきことをやるだけです。試合に出場すれば、たくさんの方の責任を背負ってやらないといけない。応援してくれるファン・サポーターのためにも勝たなければいけないんです」
プロフットボーラーとして迎えた5年目、ついに託されたレギュラーナンバー。2017年は植田にとって、大きな責任を背負って突き進んだ時間だった。背中には「5」が輝き、選手会副会長にも就任。アントラーズが誇る堅守の伝統を受け継ぐ者として、そしてチームリーダーとして――。ピッチ内外で自覚を纏い、戦い続けた。
9月23日、聖地が沸騰した夜。後半アディショナルタイム、植田のヘディングシュートがアントラーズファミリー全員の願いを結実させた。のちにシーズンベストゴールに選出される劇的決勝弾は、歓喜の中心でベンチへ疾走する姿とともに、今も鮮やかに記憶されている。これこそが、アントラーズのセンターバックだ――。誰もがクラブの歴史を想起し、その物語を継承した背番号5の躍動を喜んだ。「サポーターの皆さんが勝たせてくれました」。植田自身もまた、ともに戦うファミリーと分かち合った歓喜を全身で噛み締めていた。
公式戦31試合出場はキャリアハイ。数字だけを見れば、充実のシーズンと言えるだろう。だが、追い求めていたものを手にすることはできなかった。無冠という現実が、植田の胸に重くのしかかる。5月12日に負った肉離れを懸命のリハビリで乗り越え、戦いの場へと帰還した30日。広州恒大との激闘、その先で待っていたのは屈辱の結末だった。「結果が全て。残りのタイトルを全て獲らないといけない」。必死に前を向いた背番号5はしかし、自身が立てなかったピッチで2つのタイトルを失ってしまう。代表招集中だったルヴァン杯準々決勝、そしてコンディション不良でベンチ外となった天皇杯準々決勝。巡り合わせと己の不甲斐なさ、そしてチーム全員が共有した失意と向き合い、植田は残されたリーグタイトル獲得へ全てを注いだ。だが、しかし――。
スコアレスドローに終わったあの日、ヤマハスタジアムのゴールネットが揺れた瞬間があった。昌子とのスクリーンプレーから生み出した、会心のヘディングシュート。しかし、背番号5のシーズン5得点目は認められなかった。判定が覆ることはない。45分以上が残されていた。どんな形でも、スコアを刻まなければならなかった。最終盤には植田も前線で身体を張り続けた。だが、思いは届かなかった。
もがき苦しみ、力強く逞しく前進し、そして味わった悔しさ。激動の2017年を終え、「ケガをしてチームに迷惑をかけてしまったので、シーズンを通して戦えるようにしないと」と、植田は覚悟にも似た表情で言い切っている。あの最終節から10日後、ついに果たしたA代表デビューも手放しで喜べるものではなかった。主戦場ではなく、右サイドでの出場。新たな可能性を示し、「複数のポジションができるのは良いこと」と言いつつも、苦々しい思いも募る。アントラーズ不動のレギュラーとして、そしてサムライブルーのセンターバックとして。さらなる高みへ登り詰めるためのシーズンが、いよいよ幕を開ける。
「毎年のように“このクラブが持っていないタイトル”と言われてしまっているし、獲るつもりでやります。全てのタイトルを獲るうえでも、大事な初戦です」。アジアの頂へ、そして全タイトル制覇へ――。アントラーズの背番号5として臨む、2年目のシーズン。植田の挑戦が、始まる。