PICK UP PLAYER


 「結果を残すことでしか認めてもらえないと思うので、狙い続けたい。自分の仕事は点を取ること。点を取って、チームを勝たせること」

 9番を背負って迎える2年目。プレシーズンの対外試合では5戦出場4得点と、ハイペースでゴールネットを揺らし続けた。今季こそ、レギュラーの座を奪う――。常に獲物を狙い続けるゴールハンターは「もっと点を取れた。取らないといけなかった」と繰り返し、その貪欲さを隠そうとはしない。鈴木優磨を突き動かしているのは、悔しさと向き合った日々の記憶だ。2017年は背番号9にとって、己への不満ばかりが募る時間だった。

 昨年のプレシーズン、優磨はタイと宮崎で得点を量産していた。勢いに乗って迎えた開幕、予感させた飛躍――。だが、思うような1年にはならなかった。「去年もこの時期から動けていたけど、シーズン中は全然ダメだった。このコンディションが1年続かないと意味がない」。FUJI XEROX SUPER CUPやセビージャFC戦を含めると、2017年にゴールネットを揺らした回数は17に上る。数字上はキャリアハイ。だが、そこに充足感は全くなかった。季節の移ろいとともに精彩を欠き、プレータイムは次第に減少していったのだ。

 「優磨は良いものを持っています。ただ、試合を90分トータルで見た時には…。短い時間であればインパクトを残せるだろうし、頭の中を整理してプレーできるのかもしれないですけどね。全てのレベルを上げることを要求していきたい」

 昨年8月、大岩監督はもがき苦しんでいた背番号9への評価を明かしている。5月末の就任後、指揮官がリーグ戦の先発メンバーに優磨を指名したのは一度だけ。それも初陣となった6月4日の広島戦だ。そしてサマーブレイクを終えると、21歳の若武者はピッチから遠ざかっていった。煌めく才能を解き放ったルーキー安部の台頭とは対照的に、優磨はその野望を燻らせたまま、「自分が試合に出て、1点と言わず2点、3点と取ることで競争を激しくしないといけない」という言葉を体現できないまま、迷路の出口を探し続けていた。

「去年は個人としてもチームとしても、悔しい思いをしたので、今年は絶対にやらなきゃいけないという思いが強いんです」

 あの日のヤマハスタジアム。優磨は76分からピッチに立った。唯一絶対の任務を携え、ゴールだけを見て走り続ける。前線でボールを呼び込み、身体を張って空中戦を繰り返す。だが、待っていたのは屈辱の結末。鹿のエンブレムとともに歩み続けてきた背番号9にとって、アントラーズDNAの継承者にとって、最終節での首位陥落などあってはならないことだった。己とチームの不甲斐なさを重ね合わせながら、幕を閉じたプロフットボーラーとしての3年目。胸の底を焦がす種火が、次なる戦いに向かう自分を駆り立ててもいた。

 「毎日走っていたし、食事や体脂肪に気をつけていました。体脂肪を落として動けるようになったと思います。細かい数値はわからないですが、周りからは『軽くなった』とは言われます」

 だからこそ、優磨は並々ならぬ決意を一つの形にしてみせた。肉体改造だ。シーズンを戦い抜くベースを築き上げ、新シーズンに突入した。そして今、「身体がキレていますし、それで気持ちの余裕もあります」と手応えを語る。「このコンディションが1年続かないと意味がないですけどね」と付け加えながら。自らに言い聞かせるように、そのフレーズを繰り返しながら。

 果たして、優磨は2月の公式戦初戦・上海申花戦で先発メンバーに指名された。刻んだプレータイムは90分。身体を張ったポストプレーで起点となり、切れ味鋭いドリブルで相手の守備網を切り裂いた。労を惜しまないプレスもまた、アントラーズの推進力となっていた。「もっと時間を長く、質やインテンシティーも高くできるように要求していきたい」と指揮官に評されていた昨夏を思えば、フル出場という事実こそが成長の証でもあった。続く水原三星戦、清水戦も先発出場。4年目にして初めて、J1開幕スタメンの座を射止めてみせた。


 だが、しかし――。心の底から渇望しながら、まだ刻めていない瞬間がある。ストライカーの存在証明、ゴールだ。「今年はチーム全体として、ビルドアップをすごく意識している。後ろからしっかりパスをつないでいって、あとは前線が決められるかどうか」。責任を全身で背負う決意を言葉に刻んでいるからこそ、現状に納得などできない。「決め切る力がまだまだ足りない。自分の未熟さを感じた」。そう言って、優磨はさらなる進化を誓う。兄のように慕い、そして超えるべき壁として切磋琢磨を続ける金崎が水原三星戦で2得点を挙げた事実もまた、ゴールハンターの闘争心に火をつけている。

 そして迎える、ホーム開幕戦。思えば昨年11月26日、満員のカシマスタジアムが失意のため息に包まれたあの日から、時計の針は止まったままだ。柏、磐田、そして清水とリーグ戦3試合連続のスコアレスドロー。ならば今日こそ、背番号9が任務を遂行するしかない。「決めるべきところで決めるのが本物のストライカーだと思う」。ならば今日こそ、ゴールネットを揺らすしかない――。

 鈴木優磨、21歳。アントラーズの歴史に名を刻むために、エースへの道を切り拓くために。ストライカーの本能を、聖地のピッチに解き放て。
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