仙台戦のみどころを読む!

冷たい雨に打たれながら、苦しくもどかしく、そして不甲斐ない時を刻んだ第1戦。杜の都で意地の一撃を突き刺した背番号8は「次で勝ち切るしかない。今いるメンバーで全力を尽くして次に進めるように、勝ちに行くだけ。チーム力が問われている」と、不退転の決意とともに強固なベクトルを放ってみせた。
フットボールの醍醐味と奥深さ、そして恐ろしさが凝縮されたノックアウトマッチ・ルール――。それを味方につけた者だけが、ホームとアウェイで1試合ずつを戦う制度の妙を最大限に利用する力を備えた者だけが、次なるラウンドへ歩みを進めることができる。思い起こしてみよう、聖地で果たしたリベンジの数々を。アントラーズという物語に記された、逆転突破の記憶を――。
1999年。駒場のスコアボードに記された、0-2という屈辱のスコア。しかし、諦める者は誰一人としていなかった。秋田豊が気合いの坊主頭でピッチに立った、カシマでの第2戦。70分までスコアが刻まれることはなかった。それでも、下を向く者など聖地には存在しない。名良橋晃、相馬直樹。アントラーズが誇る両翼がゴールネットを揺らし、180分を終えたスコアは2-2に。そして迎えた延長戦。決着をつけたのは、今もアントラーズを支える背番号13だった。95分、柳沢敦。渾身のダイビングヘッドが、改修途中のカシマスタジアムを沸騰させた。
2001年。アントラーズは1つのトーナメントで2度も窮地に追い込まれた。まずは2回戦、柏の葉で1-3。それでも、W杯仕様に変貌を遂げた聖地は動じない。第2戦、トニーニョ セレーゾ監督は柳沢、鈴木隆行、平瀬智行を揃ってピッチへ送り出した。希望と勝利を託された3人のストライカーは、任務をしっかりと遂行。1つずつスコアを刻んでみせた。4-0。鮮やかなゴールラッシュで柏を粉砕した。
そして2001年、2度目の歓喜は準々決勝だった。第1戦、またも駒場で屈辱を味わう。後半終了間際の直接FKで0-1。だが、聖地に怖いものなどない。キックオフと同時に猛攻を仕掛けるアントラーズを前に、浦和は後退を続けた。防戦一方のアウェイチームはファウルでしか勢いを止められず、ハーフタイムを迎える時点で2選手が退場。そして後半開始早々、名良橋のクロスに秋田が飛び込む。背番号3、魂のヘディングシュートで2試合トータル1-1。その後も攻め続けたアントラーズは90分で仕留めることこそできなかったが、粘る浦和を延長戦で蹴落とした。92分、長谷川祥之。ビスマルクのCKに身体を投げ出し、ダイビングヘッドで決着をつけた。
アントラーズは10年前にも、鮮やかな逆転劇を演じている。2007年、広島との準々決勝。苦しい台所事情で臨んだアウェイゲームは、0-1で終了。しかし、聖地で迎える第2戦のメンバーリストには、今もなおアントラーズを牽引する闘将の名前があった。小笠原満男、メッシーナからの復帰戦――。真新しい背番号40を纏い、ピッチの支配者がカシマに帰ってきた。さらに、負傷が癒えた内田篤人、そして柳沢も先発に復帰。満を持して充実の陣容を揃えたアントラーズは、マルキーニョスの2ゴール、そして野沢拓也のヘディングシュートで3点を先行。反撃を1点に抑え、3-1で広島を撃破した。2試合合計、3-2。高らかにベスト4へと名乗りを上げた。
カシマスタジアムでの逆転劇は過去に4回。全てに共通していることは、誰一人として諦めることなく、ゴールと勝利を追い求めて戦い続けたこと。猛攻を仕掛けながらも、失点への細心の注意を払い、そして先にゴールネットを揺らしたこと。鹿嶋の夜空に響き渡るアントラーズレッドの情熱とともに、アウェイチームを凌駕したこと。聖地に不可能なんてない。ならば今夜、もう一度――。
冷夏の仙台、激しい雨に打たれながら、失意のビクトリーホワイトは静かにリベンジを誓っていた。背番号12も、思いは同じ。選手たちがビジタースタンドへと一歩ずつ足を踏み出すたびに、降り注がれるチームコールの声量は大きくなっていった。誰一人として、下を向く者はいなかった。そして、ロッカールームに引き揚げた選手たちに、指揮官は告げた。「絶対に勝ち抜くんだ」と。誰もが、屈辱のホイッスルが鳴り響いた瞬間から逆転突破だけを見据えていた。
さあ、聖地で戦う第2戦が始まる。アントラーズが第一に遂行しなければならないのは、2点差以上で勝利を収めること。その前提条件を満たしたうえで、得失点差かアウェイゴール数で仙台を上回らなければならない。3点差以上なら文句なしの逆転突破、2-0ならアウェイゴール数の争いを制し、3-1なら延長戦突入となる。ノックアウトマッチならではのミッションを常に頭に入れながら、熱く冷静に試合を進めなければならない。

土居は苦い記憶をあえて呼び起こしてまで、前へ進もうとしていた。まだ、前半90分が終わったに過ぎない。アントラーズファミリーの底力を見せ付ける時がやってきた。今夜も、ともに戦おう。聖地で5度目となる逆転劇を、ともに。
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