ENCORE(アンコール)- 中田浩二 柳沢敦 新井場徹 合同引退試合 -
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中田 浩二 記念コラム

2011年、4月6日。“3.11”からの一歩目。

 「アントラーズ史上最高の、ポリバレントプレーヤー」。ある人は、中田浩二のことをそう評する。センターバック、ボランチ、そして左サイドバック。複数のポジションで高いレベルのパフォーマンスを発揮する中田をうまく表現した言葉ではある。

 その類い稀なサッカーセンスとバランス感覚に満ちた戦術眼にばかりが強調された中田だが、実はそのサッカー人生にかける情熱も他のプレーヤーと比較して際立ったものだった。同期の小笠原満男は、「浩二は誰よりも試合に対する準備を怠らない。それは(現役最後となった)去年も同じだった。ベンチにすら入れない時期が続いたけど、アイツは最後までピッチに立つための準備を続けていた」と証言する。そして、その話を中田本人に振ると、「当たり前のこと。それがプロ」と決まって言う。

 2011年3月11日。誰も経験したことのない大津波が東日本の太平洋沿岸を襲えば、福島では原発事故が発生した。アントラーズのホームタウンも大津波や地震によって大きく傷ついた。ラブハウスの機能は停止し、スタジアムは使用不可能となり、チームはその活動を一時休止した。

 この経験は、様々なことを経験してきた中田にとっても、非常に大きなものだった。「サッカーを続けていけるのか、このチームの誰しもが思ったこと。特に、故郷がめちゃくちゃになったミツ(小笠原)やヤス(遠藤)のことを考えると…。ミツも良く言うけど、普通にサッカーができることがどれだけ幸せなのか、改めて深く思わされた」。

 それから約1ヵ月後。海を渡り、韓国は水原の地でアントラーズはシーズン再開のファーストマッチを戦った。ACLグループリーグ初戦、中田はセンターバックとして先発した。

 試合は、この1ヵ月満足に練習もできなかったアントラーズがアウェイで押される展開となった。後半には水原に先制点を奪われ、窮地に立たされた。

 しかし、アントラーズには中田浩二がいた。71分、CKの競り合いからこぼれてきたボールを中田はダイレクトで水原ゴールへたたき込んだ。

 「絶対に負けられない。その一心だけだった」。試合後、そう振り返った中田はゴールが決まった瞬間、雄叫びを上げた。その表情は、サッカーにかける彼の思いが凝縮されたものだった。

 中田との数え切れないほどの思い出。その中でも、このゴールは観る者の魂を揺さぶるものだった。普段のスタイリッシュな立ち振る舞いも中田浩二の魅力なら、このゴールに象徴される熱き魂の迸りも、その魅力。いや、もしかするとこの熱き魂こそが、彼本来の姿なのかもしれない。
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