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 今季開幕前、宮崎キャンプに合流したファン アラーノは、いきなりトレーニングで高いクオリティをみせた。優れたプレービジョン、パスセンス、ボールコントロール、どれもが一級品だった。

 しかし、いざシーズンが始まると、公式戦で思うような活躍ができない期間が続く。味方のために長い距離を走り、多くのチャンスをつくるが、得点やアシストといった目に見える結果がついてこない。責任感が強く、真面目な性格が影響しているのか、ゴール前で訪れた決定機も“らしくない“ミスで外してしまった。新加入の同胞エヴェラウドがゴール数を伸ばしていく中、アラーノの初ゴールはなかなか生まれなかった。

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 ただ、そんな苦しい状況でも、アラーノは真のプロフェッショナルとして懸命に努力を続けていた。自ら体調管理を徹底し、試合に向けた準備も欠かさなかった。本人に話を聞けば、「非常に高い技術や、特別な才能を持っていながら、他の要素でつまずき、プロになれなかった選手を何人も見てきた。約束事や規律を守れない、集中力に欠けている、目的があいまいになっている...。彼らを反面教師に、自分の長所を取り入れながら、より細かな戦術を極めてきた。たとえ、プロになっても、自分の基本的な考え方は変わらない。だからこそ、常に上の目標に向かって全力で取り組む」と、フットボールへの誠実な姿勢を持ち続けることが重要だと語ってくれた。

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 そんな彼の努力が結実するのは、時間の問題だった。8月26日の第26節FC東京戦で待望の初ゴールが生まれる。荒木からの鋭いパスを見事なコントロールで収めると、利き足とは反対の左足で、浮いたボールを見事に捉えてボレーシュートし、ゴールネットへ突き刺した。

「ずっと早く点を取らなければいけないとプレッシャーがかかっていた。そのゴールを今日、やっと決めることができた」

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 待望の初ゴールを決めてプレッシャーから開放されたアラーノは、ここからパフォーマンスを一段と高めていった。9月19日の第17節C大阪戦では、前線から献身的にプレスをかけて味方のボール奪取に貢献すると、ゴール前までしっかり走り、和泉のシュートのこぼれ球を押し込んだ。

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 さらに4日後の第18節湘南戦では、カシマスタジアムでの初ゴールを決める。後半途中から投入されると、縦横無尽にピッチを駆け巡り、アディショナルタイムに決勝点を決めた。試合後にはサポーターの温かい拍手に感動し、涙を浮かべていた。「たくさんの方がスタジアムに足を運んでくれて、すごく感動した。インタビューの後に場内を1人で1周したけれど、そのとき、雨にもかかわらず、最後まで温かい拍手をいただいた。本当に感謝しています」。温かい言葉からは彼の人柄が伝わってくる。

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 その後、試合を追うごとにアラーノのパフォーマンスは向上していった。9月23日の湘南戦から11月21日の仙台戦まで、少しゴールから遠ざかったものの、どの試合でもピッチの隅々まで駆け巡り、闘志を全面に出して戦い続けた。一つ一つのプレーが流れるように連続し、決して止まることはない。本人も「チームにフィットしてきて、それが結果に表れているので、非常に嬉しい。個人的には自信が深まっている」と手応えを語っていた。

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 そして直近の清水戦でも、アラーノは素晴らしい活躍をみせた。特筆すべきは、上田の2点目をお膳立てした場面だ。味方のミスからカウンターを喰らうピンチになると、アラーノはしっかり自陣深い位置まで戻って守備をサポートし、味方がヘディングでクリアすると、すぐにこぼれ球に反応。スプリントで相手選手との競争に勝つと、今度はそのままドリブルで持ち上がる。そして、上田の動き出しを見逃さず、相手の最終ラインに生まれたギャップに、タイミングよく絶妙なスルーパスを送り込んだ。一連を動作を流れるように行うことができる判断力、献身性、足元の技術ーー。アラーノの魅力が詰まったゴールだった。

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 ただ、どれほど活躍しても彼の謙虚な姿勢は変わらない。清水戦の試合後も「上田選手の動き出しが素晴らしく、パスを出しやすい状況を作ってくれた。あとは彼の能力(が生んだゴール)」と、ゴールを決めた上田を讃えていた。そして、勝利の喜びもそこそこに、すぐ次の最終節に向けて、意識を切り替えていた。

「自分たちの目標に向けて、次は勝つだけ。他力ではあるが、自分たちが負けたらなにも意味がない。まずは集中して取り組み最終節に勝つ。結果を見て、みんなで喜びたいと思う。浦和戦、そして今日の試合に来場してくれた皆さんに感謝するとともに、最終節のC大阪戦では多くの方に来場いただいて、僕らのプレーを目に焼きつけてほしいと思う」

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 彼の言葉からは揺るぎない自信が感じられた。シーズン序盤の苦しみを乗り越えた背番号7の調子は、いままさに最高潮を迎えている。彼ならばきっとまた魅せてくれるはずだ。

 ファン アラーノ、24歳。彼を止めるものはない。

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